――5月5日(火)
――
ジョーシン
――
今日は子供の日、俺はジョーシンに来ていた。USBのフラッシュメモリを買いに来たのさ。
――
――
[回想]
――
教室
――
白石「おい、シキネ」(真顔)
シキネ「なんだ」
白石「お前、今幸せか?」(真顔)
シキネ「え、なんだって?」
白石「お前は今、幸せなのか?」(真顔)
シキネ「えっと……ちょっと待ってよ、どうしたんだよいきなり」
白石「俺は……お前に幸せになってほしいんだ」(真顔)
シキネ「はあ……」
白石「いや、言い方が少し違ったな」(真顔)
シキネ「ちがったのか」
白石「俺は……」(真顔)
白石「俺はお前に幸せになってもらうために生まれてきたんだ」(真顔)
シキネ「白石……」
白石「……へへ、ごめん。俺にこんなこと言われても気持ち悪いよな」(真顔)
シキネ「……続けろよ」
白石「え……」(真顔)
シキネ「最後まで続けろよ……聞いてやる」
白石「……へへ」(真顔)
シキネ「何笑ってんだよ」
白石「悪い、幸せっていうのがなんだかわからなくなりそうだって思ったんだよ」(真顔)
白石「近すぎて……」(真顔)
シキネ「白石……」
白石「俺はお前に幸せになってほしい」(真顔)
シキネ「ああ……」
白石「すっげえいいエ○動画を落としたから今度渡すわ」(真顔)
シキネ「OKわかった連休明けにUSBメモリ持って来るわ」
――
――
そういうわけで俺はゴールデンウィーク最終日の今日、ここに来ていた。
やっぱりジョーシンはいいね。安いし品揃えも豊富だ。
ジョ、ジョ、ジョ、ジョーシン〜。
ジョ、ジョ、ジョ、ジョーシン〜。
店内で流れている「情熱をなくさないで」はやはり名曲だなあ。ロックだなあ。へへへ。俺はこういう家電量販店で意味も無く商品を見るのが好きだから、買う物が決まっていたとしてもこうやってついつい長居してしまう。デジカメを見たりケータイを見たり、新しいウォークマンやチカちゃんも……。
――え、チカちゃん?
チカ「……」(デフォ)
可愛いらしいツインテールになんか別になんでもない感じの私服(ちょっと子供っぽい?)。愛想の無い表情は間違いなくチカちゃんだ。学校の外でも普段からツインテールなのか……。とりあえず気付かれないようにオーディオ関連コーナー影からそっと見守ることにした。
なんでチカちゃんがここにいるんだ? いやまあ、いてもいいんだけど最近どうでもいいところでチカちゃんと会う気がする。運命かもね。
チカ「……」(ふーん)
チカちゃんは42型のプラズマテレビをしげしげと見つめている。
チカ「……」(ふーん)
ひたすら見つめている。
チカ「……」(ふーん)
……いつまで見つめているんだろう……欲しいのかな、テレビ。
チカ「……(ちょっとノリノリ)……」(ふーん)
あれ、よく見たらチカちゃんは微かにノっていた。右手がリズミカルに動いているし、ほんの少しだけ身体が上下に動いている。なるほど、今42型のでっかいプラズマテレビで何かどっかのバンドのライブ映像でも流れているんだな、きっと。
チカ「……(OH OH )……」(ふーん)
おお、口元まで動き始めた。右手をちょっと大きく降るタイミングで「OH」と歌を口ずさんでいた。何の曲を聞いているんだろう……。まさか……。
――目を凝らして42型テレビの画面をよく見てみる。
ジョン「OH We’re half there……」
チカ「……OH OH」(ふーん)
ボン・ジョヴィだあああああああああああああああ!!!!!!
ボン・ジョヴィの「Livin’ On A Prayer」だああああああ!!!!!
チカ「……(ちょっとノリノリ)……」(ふーん)
チカちゃんボン・ジョヴィ好きなのかな……。というか洋楽が好きなのかな。そもそも音楽は好きなんだろうか。
どうしよう……チカちゃんが音楽好きだったら会話がはずんじゃうじゃないか!
――
――
シキネ「チカちゃんは……その、どんな音楽が好きなの……?」
チカ「ド……」(恥じらい)
シキネ「ド……?」
チカ「ドリ……」(恥じらい)
シキネ「(ドリカムかな……?)」
チカ「ドリーム・シアターです!!」(俯き+赤面)
――
――
おお好きそう!!
チカちゃんドリムシすげえ好きそう!!
そしてチカちゃんかわいい!!
これ全部俺の妄想だけど!!
――あれ。
俺が一人で勝手に盛り上がっているといつの間にかチカちゃんは42型プラズマテレビの前からいなくなってしまっていた。さすがにもういいのかな。ずっといるのもおかしいしね。
チカちゃんの意外な一面を垣間みた俺は少しぽかぽかした気分になりながら4GBのUSBメモリを買い、ジョーシンをあとにした。
――
街
――
シキネ「今度本人に聞いてみようかな」
――チカちゃんボン・ジョヴィ好きなの?
いやいやいや、駄目だ。「は?」ってなるだろ。「好きなの?」ってあたかもチカちゃんがボン・ジョヴィと触れ合っていた様子を俺が覗き見していたみたいじゃないか、気持ち悪い。というか覗き見していたね、気持ち悪いよね、俺。これじゃあストーカーみたいじゃないか。
――チカちゃん音楽好き?
……ちょっと柔らかくなったけどこれでも駄目だ「は?」ってなるだろ。例えばほら、CDショップでばったり会っちゃった時とかにこういうこと聞くんだったら自然だよね。だってCDショップには大抵音楽が好きな人が来るから。だけど違えんだよ。学校は別に音楽好きが来る場所じゃねえんだよ。なんだよいきなり「音楽好き?」とかさ。ストーカーみたいじゃないか。
――(無言)
無言とかストーカーみたいじゃないか……。
駄目だ、ストーカーだ。俺はストーカーだったのか。お父さんお母さんごめんなさい、僕はストーカーだったみたいです。
変に会話しようとするのはよそう……。きっと何もしない方が互いにとって良いことなんだ……。
――
蔦屋書店
――
チカ「……(なんか読んでる)……」(デフォ)
――って、またチカちゃんがいる!!!!!!?
なんで。どうして。せっかくこの辺りまで来たから本屋にでも寄っていこうと思ったらまたチカちゃんに遭遇した。運命なのかこれ。これ運命だろ。
白石「……(なんか読んでる)……」(真顔)
――白石までいたぞ!!!!!!
――しかもチカちゃんの隣にいる!!!!!!
こっちは運命だ。確実に運命だ。
二人はたぶん工学系の書籍コーナーで本を立ち読みしている。何を読んでいるんだろう……。ジョブズ的な何かだろうか……。
とりあえず俺は覗き見を続けた。
チカ「……(白石に気付く)……」(あっ)
あ、チカちゃん白石に気付いたっぽいぞ。
白石「……(なんか読んでる)……」(真顔)
チカ「……(またなんか読んでる)……」(デフォ)
そうだよね……チカちゃんが挨拶なんてするわけないよね……。
俺はどうしよう……挨拶しに行くべきんだろうか……?
――
――
シキネ「やあ、白石、グーテンターク」
白石「おう、運命かよ」(真顔)
シキネ「って、あれあれ」
チカ「……」(あっ)
シキネ「あれあれあれあれ、チカちゃんだ! 奇遇だね!」
チカ「グ……グーテンターク……」(俯き+赤面)
――
――
よし、大丈夫だ。シミュレーションしてみたけど問題ない! おそらく誰もが「挨拶されたい」と思っているんだから、こっちからしてやればいいんだ。きっとそうだ。
……だけど、手前側にチカちゃんがいるから回り込んで向こうの棚から白石に会いに行こう。ちょっと恥ずかしいから。
というわけで俺は回り込んだ。
シキネ「やあ、白石、アンニョンハシニムカ」
白石「おう、運命かよ」(真顔)
シキネ「って、あれあれ……」
白石「どうした?」(真顔)
シキネ「いや……」
――チカちゃんはいなくなっていた。
俺が回り込んだタイミングで帰っちゃったんだろうか……残念。
白石「どうしたんだよ……めそめそしやがって」(真顔)
シキネ「ごめん……なんでもない」
白石「俺まで気持ちが下がっちゃうだろ……」(真顔)
白石「今……こんなに嬉しいのに……」(真顔)
シキネ「白石……」
白石「……」(真顔)
シキネ「俺さっきUSBメモリ買ったんだ」
白石「おう、任せろ」(真顔)
――5月6日(水)
――
教室
――
よっこらせ。
連休明けの少し重たい身体を自分の席につけた。
シオ「おはよう、シキネくん」(笑顔[閉眼])
シキネ「おはよう」
――コツン
いて。
何かが頭に飛んできた。
白石「プレゼントさ、八年ぶりの」(真顔)
シキネ「白石……」
白石はドア付近でなんかカッコいい立ち方をしながら続けた。
白石「パスコードは俺たちの最初の思い出だ」(真顔)
シキネ「お前……」
ありがとう白石。
俺は幸せになるよ。
だけど白石。
俺たちが知り合ったのは中学のときだったよね、白石。
シオ「なあに、それ?」(笑顔[開眼])
シキネ「幸せの種……とでも言えばいいのかな」
シオ「ふーん。あ、そうだシキネくん」(笑顔[閉眼])
シキネ「うん」
シオ「ああいうときは普通に『やあ』とか言えばいいんだよ。覗き見はちょっと趣味が悪いよー」(苦笑)
シキネ「ああ……やっぱりそうかー」
シオ「そうだよー」(苦笑)
……あれ、なんで知っているんですか?
彩里さんの読心術に関する考察はまた別の話。
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