――4月25日(土)
――
春陽館
――
――前回のおさらい――
エーコ「志望校決めた?」(にか)
シキネ「四年制の大学にする」
エーコ「東ピョー大学にしなよ」(デフォ)
シキネ「無理だろ」
エーコ「無理だね」(きゃは)
――
シキネ「って、無理なんかーいっ!」
エーコ「ひゃっ」(うー)
俺は手刀をビシっとやってツッコミ体勢をしたところでスレスレで止めた。なぜなら……その……お、おおお、女の子に……触れ……ふれふれ、フリフレ……触れるなんてこととっ……なんて俺には……俺には……出来……デキストリン……。
エーコ「突っ込んでよ」(上目)
何だか拍子抜けした様子でそんなことを言ってきた。
シキネ「……いいの?」
エーコ「いいよ」(上目)
なんと許可をもらえたので俺はその手刀で少し頭を下げた園崎さんの頭頂部、つむじのあたりに軽くチョップした。
シキネ「なんやねん」
エーコ「エンッ!」(てへぺろ)
この人は非常に楽しそうだった。
俺の方はというと、チョップしたときの小指側のところに園崎さんの頭髪の感触と頭皮の感触と頭蓋骨の感触がリズミカルに、とてもファンタスティックに波状に押し寄せて俺はまるで過去と現在と未来を同時に味わっているような、アカシックレコードに触れたあのときの感覚を思い出していた。
いいなあ、園崎さんの髪の毛サラサラじゃん。なにこれ、ラックス? ラックスなの? とにかく良い髪の毛だ。がしっと握りたい。握ってわしわししたい。もう食べたい。髪の毛食べたい。
エーコ「……どうしたの悦に浸っちゃって」(にか)
シキネ「髪の毛のおひたし……か……」
エーコ「……ん?」(きょとん)
シキネ「ごちそうさまでした」
エーコ「……?」(焦り)
シキネ「と、とにかくそんなことは置いておいて、志望校どうしよう」
エーコ「東ピョーでいいじゃん」(デフォ)
シキネ「真面目に話しているんだよ」
エーコ「真面目に話しているんだよ」(デフォ)
シキネ「え?」
エーコ「え?」(きょとん)
――落ち着こう。
シキネ「東ピョーは無理だって言ったじゃん、園崎さんも」
エーコ「合格するのはたぶん無理だけど、目指すだけならタダだよ」(にか)
シキネ「え、タダなの?」
エーコ「タダだよ」(にか)
シキネ「ただ……たたた、たしかにっ!!」
エーコ「シキネくん物理とってるでしょ?」(デフォ)
シキネ「とってるよ」
エーコ「物理って斜め上に小石投げたりするじゃん?」(デフォ)
エーコ「あれって、投げるときはたぶん結構上の方を目指しているんだろうけど、綺麗なアーチを描いて落っこちるでしょ」(デフォ)
エーコ「たぶん受験も同じ感じだよ」(きゃは)
シキネ「おー、なるほど!」
……だけど園崎さん、斜方投射だと最後は地面に落っこちちゃいますよ。
エーコ「どうせ一人じゃ何も出来ないんだからスウちゃん達と同じ大学を目指しておけばあの子達もそれなりに面倒をみてくれると思うよ!」(きゃは)
シキネ「身も蓋もない!」
エーコ「よし」(笑顔)
園崎さんなぜかその場でクルリンと一回転した。あの麗しきセミロングの髪の毛がふわりと舞う。くんかくんか。
――ビシッ
次の瞬間、園崎さんはエヴァ零号機が盾を構えているような格好で古文の参考書をこちらに突きつけた。
エーコ「というわけで、私はこれ買ってそろそろ帰るから」(ドヤ)
シキネ「そんなに格好よくポーズとられても俺には加粒子砲は出せないよ……」
エーコ「えへへ、じゃあね」(にか)
シキネ「今日はありがとうございました」
そんなことを何気なく言うと、園崎さんはなんだかこちらに歩み寄って来た。
え、え、何!?
園崎さんは上半身を突き出し、こちらを見上げるようにして、指をさして言った。
エーコ「敬語禁止!」(にか)
シキネ「え……はい、申し訳ございませんでした……」
――るんるん
園崎さんはるんるんとお会計をして、るんるんと去って行った。
シキネ「るんるんとしていたな……」
白石「ああ……」(真顔)
しゅんじ「ああ……」(真顔)
シキネ「チャーミングだったな……」
白石「間違いない……」(真顔)
しゅんじ「たまらない……」(真顔)
シキネ「そして細かい……」
白石「敬語禁止……」(真顔)
しゅんじ「敬語禁止……」(真顔)
――あー、エーコさんマジ女神。
――4月27日(月)
[昼休み]
――
会議スペース
――
エーコ「とういうわけで、皆さん! 我らがシキネくんが志望校を決めたようです!」(きゃは)
シキネ「えー、いきなりだな! いきなりだよ!?」
シオ「へー」(笑顔[閉眼])
スウ「どこどこ?」(デフォ)
チリコ「気になりますー」(わくわく)
チカ「……」(デフォ)
エーコさんがこちらに目配せしてきた。
エーコ「……(ほら、言いなよ)……」(じと)
シキネ「ええ……まじで……」
シキネ「ええと……俺は……」
シオ「……」(笑顔[開眼])
スウ「……」(デフォ)
コッコ「……」(にやにや)
チリコ「……」(わくわく)
チカ「……」(デフォ)
……何だかすごく言いづらいがここまできて言わないのもおかしいよな。
シキネ「俺は……」
シキネ「俺は東ピョートル大学を目指します!!」
シオ「あっ……」(察し)
スウ「あっ……」(察し)
コッコ「あっ……」(察し)
チリコ「あっ……」(察し)
チカ「……」(デフォ)
――なんとなく予想はできていたけれど……辛かった。
シキネ「あはは……」
耐えきれなくなってため息まじり園崎さんの方へ視線をやった。
エーコ「……」(苦虫を噛み潰したような顔)
シキネ「なんで気まずそうなんだよっ」
――コツン
エーコ「けへんっ」(てぺぺろ)
今度はかなり自然にツッコミを入れることができた。チョップしてやった。再び髪の毛と頭皮と頭蓋骨の……まあそれはいいや。
コッコ「やっぱりアナタの入れ知恵なのね……」(苦笑)
スウ「まあ、そんなところだろうと思っていたけどね」(苦笑)
チリコ「え、ええと……先輩ならきっと行けると思います!!」(あわわ)
シオ「どう思う?」(きょとん)
チカ「……興味ない」(デフォ)
みんなそれぞれ非常に勝手なことを言いなさる。
エーコ「でもさあ、ほら、きっと東ピョーくらい目指しておかないとシキネくんは箸にも棒にも掛からないというか、つまり落ちるって!」(不満)
でもこいつが一番勝手なことを言っている……。この人は何だろう……やっぱりアホだよこの人は!!
コッコ「でも一理あるわね」(伏目)
スウ「それに私たちも東ピョーを目指しているから対策とかはしやすいのかもね」(苦笑)
エーコ「ほら!」(ドヤ)
シキネ「ほら、じゃねえだろ!」
エーコ「大丈夫だって! なんとかなるって!」(にか)
――バシン
――バシン
と背中を叩かれた。激励のつもりだろうが俺は餅を喉に詰まらせたような気分にしかなれなかった。
なんだなんだ……なんだか東ピョートル大学なんていう最難関大学を目指すことになってしまったぞ……。まあ、もともと目指す大学なんて無かったのだけれど。
――あれ……。
――じゃあ別に東ピョーでもよくね?
そうだよ!
そうじゃん!
目指すだけならタダじゃん!!!
あれ……。
なんだこれ……やる気が出てきた……!
コッコ「おや、シキネの目がなんか急に輝き出したみたいだけど」(デフォ)
エーコ「あれ、ほんとだ」(きょとん)
シキネ「なんかさ……おれ、やる気が出て来たよ」
エーコ「おー、出て来ちゃった??」(きゃは)
シキネ「だって……目指すだけならタダだもんね!」
エーコ「目指すだけならタダ!」(きゃは)
シキネ「目指すだけならタダ!」
エーコ「タダ割!」(きゃは)
シキネ「タダ割!」
エーコ「割ってない!」(きゃは)
シキネ「割ってない!」
――HAHAHA
そうだよ。
目指すだけならタダだ。
まだ四月だ。45°よりも上に角度をつけて斜方投射してみよう。
――志望校きーめた!
こうして俺の志望校は決定した。
チカ「……」(デフォ)
シキネ「……」
あ、チカちゃんと目が合った……。
チカ「……」(デフォ[横目])
シキネ「……」
シキネ「……えへへ、大丈夫かな」
チカ「……」(デフォ[横目])
チカちゃんは目を逸らすと彩里さんに寄り添うようにしてそっぽを向いてしまった。
シオ「えっ、何? チカ」(苦笑)
チカ「……」(さえない)
シオ「こら……『無理』とか言わないの!」(苦笑)
シキネ「聞こえてますけど????」
俺が東ピョー大学を目指して必死に勉強するのはまた別の話。
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