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あかほん! 第13話「わかったという感覚」

Posted by chloro2236 on 04.2012 あかほん! 0 comments 0 trackback
――4月20日(月)
――
図書室
――

スウ「これは違っ! シキネが微分がわからないっていうから指を点にみたてて……」(慌て+紅潮)

シキネ「そうそう! 俺もいきなりでびっくりしてたわけで……正直なぜ指を点にみたてたのかは理解できなくて……」

スウ「不利になるようなこと言うな!」(カーッ+紅潮)

 スウのローキックが決まる。

シキネ「もりぶてんっ」

スウ「まあ、つまり二人は仲良しなんでしょ?」(にやにや)

 コッコさんがにやにやしながら言う。

スウ「だから……そういうのじゃ……!」(うーん+紅潮+ぴょこ)

 とスウが言いかけたところでコッコさんは手をかざして止めた。

コッコ「仲良しが一番よ……」(デフォ)

コッコ「仲良しが一番……」(儚げ)

 コッコさんの声のトーンが急に下がった。意味ありげに同じことを繰り返し言ったコッコさんの表情はどこか憂いを帯びていた。

――どこか自分を嘲るような。

コッコ「それよりも、私にも微分の話教えてくれないかしら? 苦手なのよ」(苦笑)

 スウは嫌そうな顔をする。

スウ「えー、それよりもコッコさんの古典が聞きたいよう」(苦笑)

コッコ「それじゃあ、さっき仲良く指をくっつけていた話をまず組長のあの子に伝えて……」(にやにや)

※組長=彩里さん

スウ「はいあの……わかりましたから、教えますから」(ぐったり涙)

 スウはまたさっきと同じ話を始めた。それにしても興味深い話だった。スウのよく言う「数学は面白い」という言葉が少しわかった。中学のとき、因数分解に感動したときのような、俺を理系に進ませたそういう面白さだった。

 そんなことを考えているとコッコさんの声が聞こえてきた。

コッコ「ごめんなさい、意味わかんないわ」(デフォ)

スウ「え?」(きょとん)

 スウ選手、動揺を隠しきれない!

コッコ「あの、なんというか、言わんとしていることはわかるのよ、でもなんか数学じゃなくない?  というか、計算だけできたらいいんじゃないかしら?」(苦笑)

スウ「えっと……だから、計算することと数学することはちょっと違って……」(困惑)

 さあ、困った困った。

コッコ「そんなこと考える必要あるのかしら?」(きょとん)

スウ「だからこういうことを数学的なものの見方で……」(うーん)

コッコ「やっぱり、わかんない」(苦笑)

スウ「数学というのは……」(うーん)

――そして議論の末、
――「とりあえず計算ができたら受験に受かる」
――という結論で落ち着いた。

コッコ「ま、計算もできないのだけれどね、私」(てへぺろ)

スウ「うー、じゃあ古典教えてよ……」(ぐったり涙)

 スウ涙目。

コッコ「うん、いいわよ。ちなみにシキネにはどこから教えたらいいのかしら?」(デフォ)

シキネ「え……?」

――あれ?

シキネ「ああ、一番最初からで」

コッコ「ん、いま何か考えていたの?」(きょとん)

シキネ「うん、まあね……」

『コッコさんに呼び捨てられた』なんてこと考えていた。まだ初めて会ってからほとんど経っていなかったから驚いた。でも、そう考えたらスウなんて最初から呼び捨てだしな、俺も呼び捨てだし、あんまり気にすることでもないのかな。

コッコ「まあ、いいわ、それじゃあ文法から始めましょうか。えっと、じゃあこの文を……」(デフォ)

井部「図書室閉めますよー」(笑顔)

コッコ「……」(デフォ)

スウ「……」(笑顔)

 その声とともに、俺たちは沈黙した。沈黙を破ったのはコッコさん。

コッコ「じゃあ……そういうことみたいだから……」(伏目)

スウ「うん」(ぐったり涙)

 スウは凹んでいた。なんか頭からプシューみたいな感じだった。

 それでもスウは諦めきれなかったらしく「教室に行こう」と言い出した。俺とコッコさんもついて行く。

――
教室
――

スウ「教室だったら、まだ大丈夫だから、きっと」(苦笑)

シキネ「ごめん、どっちにしろ俺は電車だから遅くともあと10分したら学校を出なくちゃいけないよ」

コッコ「おひらきね、残念だけど」(伏目)

 スウは凹んでいた。やっぱ頭からプシューみたいな感じだった。

スウ「うう、わかったよ、もういいよう」(ぐったり涙)

コッコ「ごめんなさいね。また今度にしましょう」(苦笑)

 ところでさっきから少し気になっていたことがある。

シキネ「スウ、そんなに楽しみにしてたの?」

スウ「あ、うん、だってあの噂のコッコさんだよ?」(デフォ)

シキネ「そんなにすごいの?」

スウ「きっとすごいんでしょ? だから楽しみだったんだけど……」(きょとん)

コッコ「もう、やめて。そんな噂、私をからかっているだけよ。教えるのは慣れているけど過度な期待はしないでほしいわね」(苦笑)

スウ「でも、噂になるくらいだから実力があるんだよ」(微笑)

コッコ「そんなの、他人より少し長く生きているだけよ」(儚げ)

シキネ「同い年じゃん」

 コッコさんには少し期待してみることにしよう。

 ここでもう一つ気になっていたことを俺は聞いてみた。

シキネ「そういえばさあ。コッコさんの本名って何ていうの?」

コッコ「……」(伏目[横])

スウ「私も知りたいな、教えてよ」(デフォ)

 コッコさんはノートに何やら書きだした。

コッコ「これが本名よ」(伏目)

 渡されたノートにはこう書いてあった。

――[国羽雉子]――

コッコ「読める?」(にやにや)

 よめません。

スウ「ええと、こくうすいこ? 違うかな」(デフォ)

コッコ「うふふ……」(にやにや)

シキネ「違うの?」

コッコ「これでね、きじって読むのよ。『こくうきじ』。これが私の本名。」(伏目)

シキネ「雉子っていうんだ! 確かにコッコさんキジっぽいもんね」

コッコ「それどういう意味よ」(苦笑)

 楽しい会話は続いた。だけど宴もたけなわに電車の時間は近づいていた。

シキネ「それじゃあ、そろそろ帰らなくちゃいけないから」

スウ「私もそろそろ帰ろうかな。コッコさんはどうする?」(デフォ)

コッコ「私は……もう少し残っていくわ」(デフォ)

シキネ「そっか、じゃあね」

スウ「また明日」(笑顔)

――
帰り道
――

 結局、スウと二人で帰ることになった。
……ちょ、待った、二人きりかよ!?
 二人きりだと何か改まってしまう。変な緊張感が二人を包んだ。何かがおかしい。でもきっとおかしかったのは今までの二人の距離感の方なのだろう。出会ったばかりの割に打ち解け過ぎていたのだ。普通だったらこのくらいの、友達とそれ以下をさまようような距離感で接するはずなんだ。

 だから、まあ。
 無言が続くわけだ……。

 耐えかねた俺は切り出す。

シキネ「スウは電車じゃないんでしょ? このへんに住んでいるの?」

スウ「……」(きょとん)

スウ「うん、そうだよ。シキネは電車でどのへんから通っているの?」(微笑)

シキネ「俺はね……」

 こんな感じで会話は滑りだした。微分の話をするときはあんなに饒舌だったスウも気まずいせいか、口があまり回っていないようだった。

スウ「じゃあ、私こっちだから、じゃあね……また」(デフォ)

シキネ「じゃあ」

 手を振って別れた。

――
電車
――

 今日は電車で座ることができた。チカちゃんと俺がチカンにあった電車だ。電車の中で今日のことを思い出していた。
 今日のスウの話で数学に少し興味がわいた。中学校の頃のようなワクワクした気持ちだ。帰ったらとりあえず数学をの勉強をしよう。
 
――「わかった」というあの感覚。

 絶対に忘れたくない。できればまた味わいたい。

 今日はスウといる時間が長かった気がする。とくに帰り道、スウと二人きりになって何か変な気分になった。何か、ふわふわした、そんな気分になった。
 スウもそうだけど、まだ出会って本当に間もないのにみんなとはよく打ち解けたものだ。

 コッコさんも……。

シキネ「コッコさん……」

シキネ「本名を聞かれたとき、どうして少し気まずそうな顔をしたんだろう?」

 考えてもわかるはずもなく、俺はVitaを取り出したのだった。


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