――4月20日(月)
――
教室
――
エーコ「今週は私ちょっと行けないかもー」(てへぺろ)
シオ「私、今日は委員会があるから行けないや」(残念)
チカ「お姉ちゃんがいないなら私も行きません」(デフォ)
白石「俺、今日しゅんじんち行くから」(真顔)
しゅんじ「俺の筋肉ドライバーで……」(真顔)
――それがさっきのこと。
コッコ「私たち、三人になっちゃったけど?」(伏目)
スウ「うう、女子三人は仕方ないとして、白石くんと筋肉はなんなの?」(呆れ)
シキネ「いや、筋肉ドライバーが……」
コッコ「それじゃ仕方ないわよね?」(デフォ)
スウ「仕方ないの!?」(驚き)
シキネ「俺もそんなことはないと……」
コッコ「アナタたち、よくもそんなに筋肉ドライバーをないがしろに……! って今重要なのはそんなことじゃないわね」(むっ→伏目)
スウ「勉強会の雲行きが……」(呆れ)
シキネ「どうする? 勉強していく?」
コッコ「今日は解散でいいんじゃないかしら?」(デフォ)
スウ「そうだね……あんまり何をしていいかわからないし……」(苦笑)
シキネ「……あ!!」
コッコ「何かしら?」(デフォ)
スウ「どうかした?」(デフォ)
シキネ「電車逃した……」
コッコ「まあ、そういうことだったらちょっと勉強していきましょうか?」(微笑)
スウ「そうだね、シキネもそれでいいでしょ?」(苦笑)
シキネ「もちろんさ。ちょっと男ひとりでドキドキするけどね……」
コッコ「……」(伏目)
スウ「……」(呆れ)
シキネ「ごめんちゃい」
という流れだった。こういうこともあるのだろう。そういえばチリコのことを忘れている気がするけど、招集をかけていないんだからそりゃ来ないよな……まあいいか。
シキネ「そういうわけでコッコさん、今日は俺に古典をはじめから丁寧に教えてほしいです」
スウ「あ、私もそれ混ざって教わりたーい」(デフォ)
コッコさんはやれやれといった顔をした。この人の動作の一つ一つは本当に同い年とは思えないような余裕と貫禄があるなあ。
コッコ「しょうがないわね、いいわよ。正直……面倒なのだけれどね」(微笑)
コッコ「図書室でいいんでしょう?」(デフォ)
――
廊下
――
コッコさんを先頭に図書室へ向かった。
あんまり表情の変化が無いスウもなんだか少しわくわくしているように見えた。
――ガラガラ
――
図書室
――
コッコ「あら、井部くん、ごきげん……」(デフォ)
井部「コッコさん! ちょうどいいところに、こっち来て下さい!」(慌て)
あれは確か、このあいだも図書室にいた井部くんとかいう下級生だったか?
……そしてあれ、コッコさんは素で挨拶が「ごきげんよう」なのか……? ますます謎が深まった。
コッコさんは井部くんに連れられて振り返りざまに
コッコ「私、去年の図書委員長だったのよ。ちょっとそれで……先にやっていて」(戸惑い)
と言って司書室の方へ行ってしまった。
とりあえず残された俺達は手頃な机に向かい合って座る。
シキネ「どうしよっか」
スウ「きっとすぐに……」(苦笑)
――Smells Like Teen Spirit(着メロ)
スウがケータイを取り出した。(ちなみに図書室ではマナーモードのはずだから着メロはきっと空耳)
スウは画面を見つめあっけらかんとする。俺にもメールを見せてくれた。
コッコ『ゴメンなさい、当分抜けられそうにないわ』
俺もあっけらかんとする。
どうする?
・じゃあ今日は解散ということで
・じゃあ今日は数学マンツーマン授業ということで
シキネ「じゃあ今日は数学マンツーマン授業ということで」
スウ「ええ……まあ、仕方ないないか、どこやる?」(苦笑)
シキネ「微分でよくわからないことがあるんです」
スウ「なになに?」(デフォ)
シキネ「なんで微分すると接線の傾きが出るの?」
スウ「え、そこ?」(デフォ)
シキネ「え、俺なんか馬鹿な質問したかな?」
スウ「いやね、もっと馬鹿な質問がくると思ったのに案外賢い質問がきたから」(苦笑)
シキネ「馬鹿って言うなよ……まあ馬鹿ですが……」
スウ「そういうことを気にすることは大事なことだよ。例えば導関数の計算をすることと微分をすることっていうのは違うし、計算することと数学をすることもちょっと違う。ここを意識しないと数学を楽しめないよ」(苦笑)
シキネ「計算と数学ねえ」
スウ「じゃあさ、ちょっと話を飛躍させてみるけど、微分って何だかわかる?」(微笑)
シキネ「え……だから導関数で接線の傾きを……」
スウ「ブブー!」(笑顔)
シキネ「ぶぅ?」
……なんだかよくわからないけど、彼女はすごく活き活きしていた。
……よくわからない。
スウ「それはただの計算、作業。つまりシキネは今まで微分が何だかわからないまま計算して問題を解いていたわけだ?」(にやにや)
シキネ「うん。かもね……」
スウ「じゃあ、身近にあるイメージしやすい例で微分とは何か考えてみようか?」(伏目[柔])
シキネ「うん」
スウ「じゃあね、質問」(微笑)
シキネ「なに?」
スウ「水平線は直線である。真か偽か?」(微笑)
シキネ「え、どういう意味?」
スウ「そのままの意味だよ、水平線は直線ですかってこと」(苦笑)
シキネ「水平線なんだから……線だよね? 真」
スウ「OK」(デフォ)
スウ「続けて質問。地球は丸い、真か偽か?」(微笑)
シキネ「え……丸いかって……え、丸くないの?」
スウ「丸いでしょ」(苦笑)
シキネ「え……どういうこと、何が言いたいの?」
スウ「何か気づかない……?」(微笑)
シキネ「今の二問が関係しているの?」
スウ「そう」(笑顔)
――どういうことなんだろう?
――わからない。
スウの方を見る。なんだかものすごく楽しそうにしている。さっき、しぶしぶ二人で勉強することになったときの表情が嘘みたいだった。「わからない」と言いたいところだったけど、なんだか悔しくなってきたのでもう少し考えることにした。
――考えろ。
――考えろ、俺。
シキネ「数学が分からない俺にもわかること?」
スウ「うん。二つの質問から気づくことを言ってほしいんだ」(微笑)
二つの質問。
――水平線は直線であるか?
――真。
――地球は丸いか?
――真。
何が言いたいのだろう。水平線は線なんだから線で当たり前だし……地球は宇宙から見たら……あれ……?
宇宙から見たら……?
シキネ「あれ、なんかおかしいよ。だって水平線ってつまり地球の表面でしょ? それが直線だったら地球は丸くならないはずだよ!?」
スウ「おお! 気づいたね!」(驚き)
スウ「そう、なんだかおかしいでしょ? でも水平線が直線だということと地球が丸いということ、この二つは一見矛盾しているけど、実は同時に成り立っていることなんだよ」(デフォ)
シキネ「……ってことは、水平線が本当は直線じゃなくて」
ここまで言ったところでスウが人差し指をふっていることに気づいた。
スウ「ノンノン、水平線は直線でいいんだよ。ただし人間サイズの観測者から見たときの話だけどね」(えっへん)
なんだろう。うぜえ。うざいけど続きが気になる。
急に饒舌になったスウは、「ここからが微分の話」と言って続けた。
スウ「地球は立体なんだけど、平面図形として考えたいから、円ってことにするね。ここまでOK?」(微笑)
シキネ「うん」
スウ「円ってことは曲線だよね。滑らかにくにゃくにゃっと曲がった線」(微笑)
「くにゃくにゃ」っていうのがちょっと可愛かった。
スウ「だけど、地球という円に対して塵みたいに小さな私たち人間がその曲線の一部、ここで言うところの水平線を見ると?」(微笑)
シキネ「直線に見えるんだ」
スウ「そういうこと」(笑顔)
スウ「それじゃあ微分についてまとめよう」(デフォ)
シキネ「うん」
スウ「曲線のある点から見ることができる、ものすごく狭い範囲、区間ではその曲線がどのように見えるのかなって調べるのが微分なんだよ」(えっへん)
スウは「ほらね?」という感じでやりきった感を全面出していたが俺はそこに水をさしてやる。
シキネ「ごめん、最後のまとめで意味わかんなくなった」
スウ「え……」(きょとん)
シキネ「そして微分のイメージはなんとなくつかめたけど、極限とかなぜ接線になるのかがわからない」
スウ「だからね、ある曲線をf(x)としたときにf(x)上のある点(a,f(a))に(x,f(x))を限りなく近づけていくと……」(困惑)
シキネ「うん、それは知っているよ? 二点を結ぶ線は、二点が重なったときにその点の接線になるんでしょ? でもさ、二点が重なったら直線が決まらないんじゃないの?」
スウ「二点は重なってないんだよ」(困惑)
シキネ「でも極限値は近づける数と同値と見なしていいんでしょ?」
スウ「うーん、まあ、そうなんだけどさ……極限という考え方がまだよくわかってないんだね」(うーん)
スウは「うーん」と唸りながらノートを取り出し、なにやら放物線っぽい曲線を書いて、それに沿って小さな丸を繋げていくといったメンヘラっぽいことをし始めた。しばらくすると、パタンとノートを閉じてこっちに向き直った。今日のスウはなんだかいつもと違うけど、いつもより動きが可愛い気がする。いいね。
スウ「わからない……」(困惑)
何がわからないのかはまた別の話。
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