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教室
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[ホームルーム]
シオ「あー、シキネくーん、また一緒だねー」(笑顔[閉眼])
シキネ「お……うっす」
隣のクラスで散々やらかした後、席替えがあった。
シオ「きょろきょろしてどうしたの?」(笑顔[閉眼])
シキネ「あの……白石の新しい席はどこなのかなと」
シオ「くすくす、仲良しだね」(笑顔[閉眼])
席替えの前は名簿順に座っていたから、白石の席が近かった。だけどもう……俺の声はあいつに届かない。俺は悲しくてたまらなかったが、白石は自分の席でガッツポーズをしている。なんだよもう。まあ、白石がむかつくことを置いておけば隣になったのが知人である彩里さんで良かったと思う。
シオ「一年のとき以来だね」(笑顔[開眼])
シキネ「一年のときも一回隣同士になったね、そういえば」
それにしても、うん。彩里さん、綺麗な人だなあ。ちょっと眠たそうなタレ目に往年のボブカット、全体的に丸みを帯びた様相はそう、まさに女性のイメージだった。首筋が……その首筋が……鎖骨が……。さらに性格も良く、頭まで良いんだ。テストではいつも学年トップ5くらいには入っていたかな。一年の頃からその神話を崩すことなく、それでいて実に地味にクラスに溶け込みながらうまくやっているんだから、もう、非のつけどころが無いように見える。
だけど、あれ、彼女に関する浮いた話を全く聞いたことがないけれど、なんでだろう。
シオ「シキネくん、見て見てー」(笑顔[閉眼])
シキネ「ん……何……これ?」
何かの形をした折り紙を渡された。そういえば彼女は折り紙を折るのが趣味なんだっけか。で……何だろう、これは……。
シオ「コーカサスオオカブトのサナギだよ」(笑顔[閉眼])
コーカサスオオカブト。昆虫綱コウチュウ目カブトムシ亜科に分類される3本の長い角が特徴のカブトムシである。アジア最大のカブトムシであり、南米のヘラクレスオオカブトと並び、世界最強のカブトムシとも……。
……そうだった、彩里さんはちょっとだけ変な人だった。
シキネ「サナギとは、目のつけ所がいいね」
シオ「シキネくんにあげるね」(笑顔[閉眼])
……こんな物もらってもなあ。
シオ「そうだ、聞いたよ、シキネくん」(真面目)
シキネ「え、何?」
シオ「スウちゃんに小学生って言ったんでしょ? 駄目だよ、スウちゃん気にしているんだから」(悲しみ)
シキネ「ああ……何故それを?」
シオ「さっき本人から聞いたよ」(デフォ)
シキネ「……あのことは俺も反省しているよ、無鉄砲だった、そして廃人テンションだった」
シオ「でも、どうしてそんな、初対面の女の子に話しかけたりしたの?」(疑問)
シキネ「その、実は俺……」
ありのままを話した。そう……偏差値18のこと、飛び級小学生にすがろうとしたこと……全てありのままに。
シオ「ああ……」(引き)
すごい、これはあれだ。残念なモノを見る目だ。
シオ「すごい……行動力だよね……」(残念)
シキネ「ハハハ……ソウデショウ……」
惨めだなあ、彩里さんの優しさが辛かった。
シオ「うーん……協力しよっか……?」(諦め)
シキネ「え……それはどういうこと……?」
シオ「勉強のこと。シキネくん、誰かに勉強見てもらいたいんでしょ……?」(諦め)
シキネ「うん。今のままじゃ……社会的食物連鎖の底辺へまっしぐらだからね……」
シオ「でもね、私も全教科の面倒を見られるほど勉強ができるわけじゃないからさ、一教科だけ見てあげるよ。あとは、私も協力するけど他の人を探してみようよ!」(真面目)
シキネ「そうか、そうだよね……って、あれ、ちょっと待った! おかしいよ!? 俺は別に全教科を誰かに見てほしいわけじゃなくてっ」
シオ「今が友達を増やすチャンスだよ! シキネくん!」(笑顔[閉眼])
そんなことって……いいのか? 可能であればそりゃあ、女の子たちと……もとい友人たちと楽しく勉強ができるチャンスだ。でも、それって……それって……。
シキネ「それって、俺があまりにもヘタレなんじゃないかな……?」
シオ「うん、もとからヘタレだよ」(笑顔[閉眼])
[消音]
シキネ「……決めたぞ! 探すぞ! 勉強できる人を! そしてすがって、すがって、大学に合格するんだぜ!」
シオ「やったね! 潔いね!」(笑顔[閉眼])
最初から、自分の体裁なんて気にする方が無駄だったんだ。彩里さんの客観的で説得力のある助言とその笑顔に後押しされて、俺は……大切なまがい物を捨てる決心がついた。
シオ「ああ……それとね、スウちゃんとはね、ちゃんと謝って仲良くなってほしいな。私からも言っとくからさ」(残念)
シキネ「そうなのか……わかった。じゃあ、とりあえず数学はスウで決まりかな?」
シオ「……あれ? スウちゃんは呼び捨てなんだね。」(笑顔[閉眼])
シキネ「なんか、こう、スウーっとね……」
シオ「……」(笑顔[閉眼])
シキネ「……」
シオ「よし、じゃあ頑張ろうか!」(笑顔[閉眼])
シキネ「どーい!」
なんだろう、この人の笑顔が少しずつだけれど笑顔に見えなくなってきた……。
このあと少し話し合った末、彩里さんには物理を見てもらうことになった。
――
電車
――
帰りの電車はなかなか混雑していた、俺は座れたけど。見ると、目の前に可愛いツインテールの女の子が立っている。おっと、目が合ってしまった。互いにすぐに目を反らす。手持ち無沙汰なのでケータイをいじってみることにする。えーと、カメラ、カメラ。駄目だ、画質があんまり良くなくって盗撮は難しそうだ。
うーん、というか、こういう時に勉強すればいいんだろうな、きっと。まあ、明日からやろう、そうしよう。
それにしても結構可愛い女の子だったなあ……ジロジロ見るのは変態だから、チラチラと見ることにしよう。俺は2秒おきに次の駅を確認するフリをして彼女を見上げた。
そんなことをしばらく続けていると、なんだろう、彼女が身体を震わせていることに気が付いた。ツインテの美少女は恥ずかしそうに目を泳がせた末に、こちらの方を向いた。いや、そんなに見つめられても席は譲らないぞ、早いもの勝ちだろ。ん、「た……す……け……」いやいや、そんな、俺には唇も空気も読めないしさ、勝手に早とちりするのも良くないよな。良くないけど……。
あれ……もしかしてこの子、痴漢されているのかな?
えっと……。
どうしよう……。
こんなときはそう……!
・勇気出して助ける!
・Vitaを取り出す!
・3DSを取り出す!
[Vitaを選択]
Vitaだよなあ、やっぱり。そもそも、痴漢に見えて痴漢じゃないかもしれないし……。
??「……んんっ」(凌辱)
声がしたのでまた見上げてみると、まさぐり攻撃が続いているようだった。ああ、これは……なんだかえっちいぞ。
……そうじゃなくて!
・今度こそ助ける!
・今度こそ3DS!
[3DSを選択]
タッチ、タッチ、えーい、タッチだ。
うん、きっともうすぐ止めるんじゃないかな、そろそろ堪能したでしょう? そうだね、きっとそうだね。
てか、俺の駅次だもんね。まあ、さよなら、名前も知らない美少女ということで……。
??「……はぅっ」(凌辱)
なんだか、終わる気配がしない……。
女の子は顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。すごく恥ずかしそうだ。
頑張れ! もう少しだ! もう少しで駅だ! (俺の)
――
町
――
そんな感じで状況が全く好転しないまま駅に着いてしまった。
シキネ「うーん、正直、いいもん見れたっす」
という感じでニヤつきながら改札を出た。
[ツインテ美少女出現]
シキネ「あ」
さっきの子だ、目が合った、しかも「あ」って言ってしまった。
??「……」(不満)
何か言わなきゃ、何か言わなきゃ……。
シキネ「さ、さっきは痴漢……大変だったね」
……!!!
まずい、これでは見て見ぬフリをしていたことがバレバレじゃないか!?
女の子は一瞬驚いた顔をしたあと、すぐに顔をしかめた。
??「早めに死ね」(不満)
ツインテ美少女はそう一言吐き捨てて去っていった。
ああ、俺はなんて罪深い男なのだろう。ツインテ美少女一人助けることも出来ず、勉強も出来ず、嘘をつくことも出来ない。
ああ、神様……もしいるのなら教えてください。
俺に出来ることって何ですか……避妊ですか、そうですか……。だけれど、そもそもそこまで持ち込むことさえ出来ないのでしょう? ええ、知っていますよ。
だから俺は、今日も家に帰るだけなんです。
――
自宅
――
今日はなんだか散々だったなあ。
飛び級小学生からはすげえ綺麗なローキック食らうし、彩里さんには残念な顔をされるし、ツインテ美少女には悪いことしたし……。
まあいいや、こんな日は寝てしまおう。
あ、勉強は……まあいいや、明日からやろう。
俺はこの日、今後の人生の隅々にいたるまでをぐるぐるに変えてしまうようなローキックを食らっていたことなど知る由もなく、身体を休めたのだった。
全ての物語はこの日に起因するのだろう。
それはまた別の話。

彩里シオ(物理)
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