――4月8日(水)
――
教室
――
シキネ「なあ……この18ってやつ何? 俺まだ17なんだけど」
白石「ああ……それはお前の偏差値だな……」(真顔)
シキネ「えっ……偏差値って歳と関係あったの!?」
白石「いや、ねえよ」(真顔)
シキネ「そうか、よかった……」
白石「いや、よくねえよ」(真顔)
――高校三年生の春。
しょっぱなに返ってきた模試を眺めて、ああ、これは俺の点数なんだ、業者に「君の学力の偏差値は18ですよ」と言われているんだ、ということになかなか実感をもつことができないでいた。
――高校三年生の春。
せめて、理系なんだから数学ができるようになりたい。その頃の俺には数学に対する関心も、理解も、実力も無かった。
シキネ「あーあ、どっかに数学教えてくれる人いないかなー」
白石「実はお前の通っている高校にはな、数学教師といって数学を教えることを生業としている人がいてだな……」(真顔)
シキネ「違うんだよ、なんていうか、先生じゃ駄目なんだよ。大人は怖いんだよ。大人をなめるなよ」
白石「……そういや、5組に『飛び級小学生』って呼ばれている数学がめっちゃ出来るちびっ子いただろ、そいつでいいじゃん」(真顔)
シキネ「わかった、任せろ、『飛び級小学生』だな」
白石「いやでも、本人はそのあだ名で呼ばれるのをすごく嫌がってるらしいから気をつけろよ」(真顔)
シキネ「嫌がってるんだな、わかった、任せろ」
――
廊下
――
やった、ついに俺の数学に光が差し込んだ。このときの俺はただただ嬉しく、廃人のようなテンションになって舞い上がっていたんだ。
俺は走った。全力で走った、隣のクラスまで。隣のクラスまで走っただけなのに息が切れた。ハアハア、待ってろよ……飛び級小学生……ぐふふ……飛び級小学生!!!!
5組のドアを開け、廃人テンションのまま、息を切らし、目に血をたぎらせて、大声で叫んだ。
――
教室
――
シキネ「すみません! 飛び級小学生さんはいますか!?」
瞬間、休み時間の教室の喧騒は絶対零度の眼差しへと変わった。
――しいいいぃぃぃいぃまったあああ! 言っちゃったあああぁあぁあああああぁ!!
凍った教室の中で、唯一動き出した少女がコツコツと小綺麗な足音を立ててこっちへやって来た。
??「それ、たぶん私のこと……かな?」(デフォ)
サラリと伸びた長髪、凛とした目鼻立ち、それらにちょっとアンバランスなちっこい身長。笑顔が可愛らしい。
シキネ「おお、君が……」
と、ここまで言って気付いたが、俺は彼女の本名を知らなかった。
シキネ「……飛び級小学生さん……ですかぁ」
??「……」(笑顔)
また言っちゃった……。
そしてこのときもう一つのことに気が付いた。そう、彼女は笑っているが、笑いながら怒っている……。
??「ちょっといいかな……?」(笑顔[怒り])
シキネ「はい」
俺は背筋を正して、青く、どこまでも広がる窓の外に明日を探した。
??「ウチの学校に飛び級制度なんてねぇよっ!」(不満)
――綺麗なローキックだった。
~OPテーマ
「みにまむ・こんぷりへんじょん」
あかほん!
~

スウ(数学)
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