――4月16日(木)
――
地歴公民準備室
――
[昼休み]
シキネ「こんにちは」
チリコ「はえ?」(きょとん)
いい天気、昼下がり、ちょっくら行ってきた。
シキネ「いやあ、チリコちゃん、ちょっと久しぶり」
チリコ「シキネ先輩……でしたよね?」(きょとん)
チリコと初めてここで会ってから約一週間、「昼休みここに来ていい?」と承諾を得てから初めて、ここに舞い戻った。
なんとか名前も覚えてくれていたようだ。きっと社会科マスターのチリコにとっては人の名前を覚えるくらい雑作も無いことなんだろう。
チリコ「ホントに来たんですね」(デフォ)
シキネ「いやね、学期のはじめは忙しくてね、なかなか来られなくてね」
チリコの表情が驚きから徐々にゆるんでいく様子が見てとれた。驚いて目をぱちくりしているチリコを見ていると、初めてこの子を見た時に感じたことはやっぱり気のせいなんかではなかったように思われる。チリコはずいぶんと大人っぽい顔つきをしていた。顔つきだけしていたと言おう。だけど、背はスウと同じかそれよりもちっこいくらいだし、常に愛想笑いをして目を細めているから、せっかくの大人っぽさも帳消しになっている。きっと、チリコのクラスの連中もこの子のまつ毛がこんなに長いことを知らないだろう。
チリコ「あ、あのっ、今日はどうされたんですか?」(もじもじ)
シキネ「今度は結構真面目に受験勉強の話をしたいんだよ」
チリコ「前は結局お話しただけでしたもんね」(デフォ)
シキネ「それと、俺の受験勉強仲間の集いの話をしたいんだよ」
チリコ「受験勉強仲間?」(きょとん)
チリコはわかりやすく首をかしげる。
俺はチリコを勉強会のメンバーに入れるためにここに舞い戻ったのだ。だって……だってやっとみんなにチリコのことを話せたんだから。
そういうわけで俺は回想しなければならない。
それは昨日のことだった。
――4月15日(水)
――
教室
――
[放課後]
あれ、そういえば今日って勉強会するのかな。昼休みは園崎さんとひたすらワイワイ盛り上がっちゃって全くそんな話は出なかったけども……。
シキネ「ねえねえ、彩里さん、今日の放課後って図書室で勉強するの?」
シオ「ん? んー、どうしよっか」(苦笑)
シキネ「どうしよっかって……」
エーコ「じゃーん、スウちゃん連れてきたよ!」(きゃは)
そんな話をしていると園崎さんが小走りでやってきた。彼女が右手に抱えているのは……ああ、スウか。
スウ「シオ……助けてシオ……」(ぐったり涙)
なんだかよくわからないけども、とりあえずスウは園崎さんの玩具になっているらしい。
エーコ「一緒に帰ろう!」(きゃは)
シオ「勉強会どうする……?」(デフォ)
エーコ「えー、明日からでいいよ」(デフォ)
シオ「じゃあ、明日からにしよっか」(デフォ)
シキネ「俺は別にいいけど……」
エーコ「ようし、じゃあ遊びに行こう!」(きゃは)
シオ「帰るんじゃないのー?」(苦笑)
そして、なんだかよくわからないけれども、彩里さんも園崎さんと波長が合うみたいだった。まあ、波長が合って仲良くチョメチョメしていただくことは俺としては一向に構わないのだが、少しだけ不安になってきた。この俺でさえ不安になってきた。
今のところ「今日はいいや」ばかりで何も進んでいやしない。いや、でも、俺は教えてもらう立場なのだから「ちゃんと教えろよ!」だとか言ってキレみても、それはそれで取り付く島もなくなってしまう。うーん、どうしたものだろうか。まあいいや、どうでもいいや、今日はいいや。
スウ「ねえねえ」(デフォ)
シキネ「ん?」
スウ「社会科は何とっているんだっけ?」(疑問)
シキネ「地理」
スウ「あらら、私もシオも日本史だから教えられないね」(苦笑)
シキネ「え、どういうこと?」
スウ「あれ、シキネに社会科教える人っていたっけ?」(疑問)
ああ、なるほど。彩里さんと園崎さんはぷるるん女子トークの真っ最中みたいだが、スウだけは勉強会のことを考えてくれていたらしい。ちょっとだけ不安が消えた。
シキネ「ええとね……一人心当たりがあるんだよ」
スウ「へえ、どんな人?」(デフォ)
シキネ「二年生」
スウ「は、なにそれ」(驚き)
俺はついに……ついにチリコのことを話す機会を得た。
シキネ「……という感じの地理オタクの二年生に会ったんだよ」
スウ「ふうん……」(デフォ)
シキネ「うん」
スウ「で、どこまでが本当の話?」(苦笑)
あ、こいつ信じちゃいねえ……。
シキネ「全部本当だよ!」
スウ「えー、だって毎日地歴公民教室で資料を読み漁っているなんて常識的にあり得ないでしょ?」(苦笑)
シキネ「いやでも、この目で見たのは確かなんだってば!」
スウ「あれじゃないの?」(苦笑)
シキネ「どれ?」
スウ「ユーレイ」(ホラー)
シキネ「え……」
スウ「地歴公民教室の地縛霊だよ……」(ホラー)
シキネ「……」
スウ「あれ……真に受けちゃった?」(苦笑)
スウが冗談で言っていたということくらい俺にはわかっていたけれど。言われてみれば……チリコにはあれ以来会ってないし、あのときにしたって俺は半ば寝ボケていたように思われる。居眠りしていて、起きたら目の前にいたチリコ。見た目もかなり素朴で、言ってみればどこか古風だったし……彼女が実は昔から学校に住みついているユーレイなんだと言われれば妙に説得力があった。
シキネ「むむむ……」
スウ「おーい、ユーレイなんていないぞー」(ほれほれ)
シキネ「……チリコはユーレイなのかもしれない」
スウ「だからいねえって」(呆れ)
スウはやれやれといった感じで続けた。
スウ「毎日地歴公民教室に行っているんだったら、すぐに会えるでしょ? 明日もう一回行ってみればいいじゃん?」(呆れ)
シキネ「天才」
スウ「ばか」(呆れ)
――4月16日(木)
――
地歴公民準備室
――
そんなわけで俺は今日さっそくチリコに会いに来たのだった。
うん、誰だよ、ユーレイとか言ったやつ、バッカじゃねえの。
チリコが人間であることはほぼ確定したので、万を持してスカウトすることにする。
シキネ「それじゃあ、お話を始めよう」
チリコ「はい」(きょとん)
シキネ「18……これが何の数字だかわかるかい?」
チリコ「……いえ」(きょとん)
俺は俺が俺の低学力さゆえにきゃぴきゃぴの新教科担任を招き、「彩里★乙★勉強会(仮)」を結成するハメに(させられるハメに)なった旨を説明した。ちなみに星が黒いのは彩里さんのイメージカラーが黒だからだ。
チリコ「先輩達、頑張っているんですね!」(デフォ)
シキネ「ああ……おうよ」
今まで受けてきた残念リアクションとは一味違っていて、これはこれで内側から身体を蝕んでいくタイプのバイオ攻撃のように思えた。つまり辛かった、情けなかった。
チリコ「そして……先輩ってお友達がたくさんいるんですね……」(自虐)
シキネ「……いなそうに見えた? しょ、小学校の時点で軽く百人はいたかな、へへへっ」
盛った。盛ってしまった。友達なんて白石としゅんじしかいない。チリコはすごい、意図的では無いかもしれないが俺の心の柔らかい場所を好んで締め付けてきやがる。つまり辛かった、情けなかった。
チリコ「いいですね……お友達……」(遠い目)
チリコはそう言いながら、決して手の届かないどこか遠くを眺め始めた。
シキネ「あれ……もしかして、チリコって……友達いない……?」
――ガク
チリコの周りだけ照明が落ちたようだ。
チリコ「やっぱりわかりますか? そりゃそうですよ、毎日こんなところに来ているんですもん、いるわけがないじゃないですか」(自虐)
やっぱり、チリコもそうだったらしい。
そう、俺には友達がいないやつがわかる。友達ができないメカニズムを知っているからだ。友達ができないやつの後ろには「友達なんていりません」というプラカードが立っているのだ。本人がそれに気付いているか否かは関係ない。立っているやつには立っている。自分で撤去しない限り立ち続けるのだ。俺はそれに気が付くことができた。気が付いた上で、撤去するのを諦めたのだが……。
シキネ「チリコ……顔を上げろチリコ」
チリコ「……はい」(自虐)
でも、だからこそ今日の話題にも日が当たるというものだ
シキネ「本題に戻ろう。つまりだ、チリコにも是非来てほしいんだ」
チリコが固まる、目をパチパチ。
チリコ「え……三年生の方々と一緒に勉強するんですか?」(きょとん)
シキネ「そりゃあ、もちろん」
チリコ「はわわわわっ、絶対無理ですよっ!?」(慌て)
シキネ「ああ、でもメンバーには二年生もいるよ」
チリコ「……ちなみにどなたが?」(きょとん)
シキネ「彩里チカちゃんですね」
チリコ「……」(デフォ)
シキネ「……」
チリコ「……」(きょとん)
シキネ「……」
チリコ「……一人だけですかっ!!?」(慌て)
シキネ「まあほら……みんな親しみやすいし」
チリコ「関係ないですよ!」(もー)
シキネ「ええ……駄目?」
チリコは顔を赤くして俯いてしまった。やっぱりいきなり三年生ばかりの勉強会に参加してくれというのは無理があったのだろうか。
……にしても本当に小動物みたいな子だなあ。小さい。いろいろ小さい。いろいろ……。
シキネ「ちなみに……下着のサイズは?」
初めの一歩が次の二歩、三歩へと繋がるのはまた別の話。
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おっかないです。
久しぶりにPVを貼っておきましょう。
制作も佳境ですね……さて、冬コミは当選するのかな……?
――
電車
――
今日は座れなかった。
そういえば噂の留学生のことなんてすっかり忘れていることに気付いた。スウ曰く「すっごい美人」だそうだし、楽しみではある。
……でもなんだかんだ言ってスウだって美人だよな。なんていうか、凛々しいよ、うん。
ホワワーンとそんなことを考えていると股間に違和感がした。何かが当たっている、手か? そう思うが早いか手は動きだした。しかも明らかに俺の男の勲章を弄んでいる。
シキネ「あんっ、ちょっ……そこは……」
手は止まらない。雄々しく天を目指すそれは窮屈な社会の窓から顔を出せないままに力尽きようとしている。手は止まらない。
シキネ「ら、らめええぇぇぇえええぇぇ!!」
??「この人痴漢です!」(怒り)
俺が絶頂を迎えようとしたとき、彼女がその汚らわしい手をつまみ上げた。セミロングの髪の毛、モデルのような容姿、なにより美人。快活で透明感のある声が俺の股間にはびこるクトゥルフを引っぺがした。
辺りはざわめいた。そして誰もが首をかしげた「え、誰が誰に痴漢したの?」と。そしてその隙に痴漢をはたらいていた男は逃げていった。
??「あっ、もう! あはは……犯人逃しちゃった」(てへぺろ)
助けてくれたのは女子高生だった。というかよく見たらうちの高校の制服じゃないか。向こうもこちらに気づいたらしく、話しかけてきた。
??「あれー、同じ学校じゃん。えっと、私、今日こっちに戻ってきた園崎エーコです、ダブっているけど仲良くしてねんっ」(笑顔)
シキネ「戻ってきた……? あ、もしかして噂の留学生の?」
エーコ「噂……になっているのかな」(苦笑)
シキネ「ああ、初めまして! いや、その前にありがとうございました、か」
エーコ「当然でしょ。まあ、なんていうか、あんなやつ日本にもいたんだね……」(笑顔→苦笑)
シキネ「やっぱり……向こうは激しいんですか?」
エーコ「ん、激しいって?」(きょとん)
シキネ「あ……いや、なんかいろいろと」
エーコ「んふふ、激しいよー。イロイロと、ね」(にやにや)
うう……こ、これが歳上の魔力か。このままじゃ首から上を持っていかれそうだ。
エーコ「さっきみたいなのもいっぱいいるしね」(笑顔)
シキネ「さっきみたいな……ああ……」
エーコ「うん……」(悲壮)
とても切なくなった。
エーコ「まあ、同じ学校なんだしっ、今日のことは忘れてさ、学校で会ったりしたら声かけてよ! 私も声かけるからさ。そういえば君って何年生?」(笑顔→疑問)
シキネ「三年生です」
エーコ「あぁーっ! じゃあ敬語禁止! 同級生なんだから、ね?」(ぷんぷん→笑顔)
シキネ「はい……あ、うん」
エーコ「あは、よろしい。名前教えてよ」(笑顔)
シキネ「シキネです……あ、シキネだよ」
エーコ「シキネくん? うん、いい名前」(大人の笑顔)
シキネ「どうして?」
エーコ「どうしても。あ、じゃあ私ここで降りるから、じゃねー、また明日!」(笑顔)
シキネ「ばいばい」
……すごい。あれはすごい美人だった。ありゃ美人だ。しかもいい人だ。年上もアリだなあ。やった、知り合っちゃったよ。美人と知り合っちゃったよ!!
――4月15日(水)
――
教室
――
[昼休み]
シキネ「あれ、今日スウは?」
シオ「来てないねー、シキネくんちょっと見てきてよ」(笑顔[閉眼])
シキネ「え、なんで俺が?」
シオ「にこにこ」(笑顔[閉眼])
シキネ「……行ってきます」
コッコ「あ、あれよ……またよ」(焦り)
コッコさん、負けないで、もう少し。
――
廊下
――
とりあえず、様子を見てこよう。
――
教室
――
シキネ「おーい」
すると聞き覚えのある透明で元気ハツラツな声が返ってきた。
エーコ「あれ!! シキネくんだ、学校で会えたねー」(笑顔)
教室が凍りついた、二酸化炭素もびっくりだった。スウの一件で俺はこのクラスの人々から煙たがられているようだが、「またテメエか」みたいな空気が流れ始めた。
特に男どもからは「なんでテメエがエーコさんに名前呼ばれてんだ、殺すぞ?」と言わんばかりの顔面罵声を浴びせられた。
スウ「シキネーhelpー」(ぐったり)
スウが助けを求めている、珍しい。
エーコ「シキネくん、すごいんだよ、この子、スウちゃん。数学を教えてもらっているんだけど、なんでも解けちゃうの。見た目はこんなにちっこいのにねー」(きゃは)
あらら、この人は知らないのか。本人に聞こえないように教えてあげる。
シキネ「園崎さん、スウはですね、容姿のことを気にしているんですよ。だからそういうこと言っちゃ駄目です」
エーコ「え、そっか……ごめんねスウちゃん」(慌て)
スウ「もーいいですよー、慣れていますし」(ぐったり)
エーコ「ああ、敬語禁止! じゃなかった……今謝っているのは私だもんね」(ぷんぷん→苦笑)
スウ「うう……」(ぐったり涙)
スウが手招きしている、珍しい。
スウは机に伏せったまま起き上がる気力も無いようなので俺の方から耳をかしてやった。
スウは力無い声で言った。
スウ「一限目が数学で授業の質問をされてね、教えたんだよ。そしたらニ限目以降にも授業中に質問とかされてね。まあ、質問されること自体は別にいいんだけど、問題文が英語だったり、ものすごく解くのが難しい問題があったりしてさ、それが今までずっと続いているんだよ。もう頭痛いよう」(ぐったり涙)
スウがくたびれている、珍しい。
にしても、女の子に耳打ちされるのはやっぱりゾクゾクしちゃうな。
シキネ「まあほら、そういうのは留学効果だし、しばらくは大目に見ようよ」
スウ「十分大目に見てますー」(ぐったり涙)
シキネ「まあほら、お昼だし、とりあえずみんなのところへ行こうぜ」
スウ「うう……」(ぐったり涙)
エーコ「あれ、お二人は知り合いなんだ! お昼ご飯一緒に食べない?」(きゃは)
教室の空気がまた変わった。周りを見るとお弁当を持ってスタンバイしていた男どもが絶望の表情をしている、教室の外にまでいやがる。こいつらみんな園崎さんの出待ちかよ!! しかもよく見ると、男子に紛れてうちのクラスの担任までもがお弁当を持ってスタンバイしていた。担任きめえ!!
シキネ「他にもいっぱいいるけどいいかな? 筋肉とか」
エーコ「いいよ。賑やかな方が楽しいし」(デフォ)
シキネ「じゃあ行こうか」
正直俺は一刻も早くこの教室から出たかった。この、阿鼻叫喚が渦巻く教室から……。
――
会議スペース
――
彩里組、もといみんなのところへやっと合流できた。見たところみんなまだお昼を食べないで待ってくれているようだ。
あ、でもしゅんじとチカちゃんは食べていた。
白石「待ちくたびれたぞ」(真顔)
シオ「その子は誰?」(きょとん)
シキネ「噂の逆輸入留学生、園崎さんです」
エーコ「初めまして、園崎エーコです。ダブっているけど仲良くしてね」(笑顔)
果たしてダブっている~のくだりは必要なのだろうか?
そして、園崎さんのその有り余るバイタリティから容易に想像できたが、彼女は10分もしないうちに彩里組にものすごく溶けこんでいた。
エーコ「スウちゃんはすごいよ! 先生より全然わかりやすかったもん」(笑顔)
スウ「そんなことないよー」(苦笑)
シオ「いやいや、スウちゃんの教え方はわかりやすいってー。私もたまに教えてもらうけどさ、すぐに理解できるもん」(笑顔[開眼])
チカ「スウさんはすごい」(デフォ)
スウ「みんなしてからかわないでよ」(スウ)
シキネ「いやー、でも偏差値18の俺があんなに理解できるんだからさー」
スウ「偏差値18に教えるのはさすがに大変だね」(苦笑)
シオ「でも、スウちゃんに軽く教えてもらっただけでも19くらいにはなったでしょ?」(笑顔[閉眼])
エーコ「ん……18?」(きょとん)
園崎さんは「何を言っているのだろう」と言った顔つきで辺りを見回した。
コッコ「彼女、知らないんでしょう?」(にやにや)
俺と彩里さんで俺の成績のこと、この集まりのことを説明した、ありのままに。
エーコ「……駄目じゃん、シキネくん!」(驚き)
エーコ「シキネくんて……その……馬鹿だったんだね……」(悲壮)
シキネ「あの、自分でも理解しているつもりだったけど、そこまでハッキリ言われると辛いね」
エーコ「ああ……ごめんね。ほら……人間いろいろだし、人生これからっしょ!」(苦虫を噛み潰したような顔)
優しい嘘ならいらないよ、園崎さん。
シオ「じゃあエーコちゃんが英語を見てあげたらいいんじゃない? 英語ペラペラでしょ?」(笑顔[開眼])
エーコ「うん、ペラペラよー。そだね、じゃあ、ここはお姉さんが一肌脱ぎますか!」(苦笑)
園崎さんはその大きく真っ直ぐな瞳をこっちに向けて言った。
エーコ「Are you ready…?」(にやにや)
シキネ「い、いぇす、あいあむ」
こんな感じで俺の人生をぐるぐるに回すことになる6人の新しい教科担任は揃ったわけでした。

園崎エーコ(英語)
こんにちは色音です。
もう4日くらい前の記事になりますが「友達100人できるかな」と書いていたと思います。
まずは、結果から報告しましょう。
結果: そもそも100人も来ていない。そういうわけでした。
さて、ここまで来て内容について来られる方は一体どのくらいいるのでしょうか。
なんせ秘密結社ですから、日常会話も常に暗号化されています。嘘です。
今日は秘密結社「2Dクリエイター友の会」のオフ会の記録を残したいと思います。
というか秘密結社というのも実は嘘です。普通に会員募集していますので記事の最後に紹介します。
とりあえず範囲分けしながらつらつらと記していきましょう。
ⅰ 自宅〜つくば駅
自転車で移動します。自転車はもう、かれこれ5年以上乗っている僕の相棒です。今まで幾度となく修理を施したオンボロではありますが、さながら火の鳥のごとく甦り、僕を送り迎えしてくれます。大事な相棒です。
が、道中8回ほどチェーンが外れました。うちの火の鳥は風前の灯でした。
ⅱ つくば駅〜新宿駅
よく考えたら夕方のラッシュ時間帯でした。これはまさか……いやいや……。
痴漢(冤罪)とかに巻き込まれるというフラグが立ちましたが、なんとか回避できたようです。
ⅲ 新宿駅〜会場
ええと……ここはどこでしょうかね……。
新宿駅……15戦9敗6引き分けの因縁の相手であります。
東南口と東口を勘違いした時点で既に相手が一歩リード。そうは言っても近頃は引き分け回数も増えてきていて、こういった相手の攻撃も大方は予想の範疇でした。ここまま引き分けに持ち込めれば……。今思えばこれも希望的観測だったのでしょう。僕はこの日ある真実を告げられます。
そう、新宿駅を影で牛耳るものがいたことを。

「新宿歌舞伎町」奴はそう名乗りました。
「オニイサン今夜決マッテル?」
「飲ンデッテ飲ンデッテ。ドウ?」
「……(何かリズムに乗っている)……」
やべえ!
怖え!!
怖い人達攻撃や細い裏路地攻撃、センスを疑う飲み屋名攻撃に屈しそうになりましたがなんとか会場にたどり着きました。


ここです。
やべえ!
スケスケだ!!
※下にスケスケ感のあるローソンがありました。
というわけで命からがら会場にたどり着いたのでした。
ⅳ 一次会
もう運営の方々と数人は集まっているのだろうなと思って、受付で会場を聞き、テーブルのあたりまで案内されましたが誰もいません。「早かったのかな」と思っているとウエイターのイケてるお兄さんすかさずこちらにやって来ました。
ウ「幹事さんですか?」
色「ちがいます」とりあえずその辺で待っておいて下さいと言われたので、その辺に行くと友の会のメンバーと思しき方々が……。
――ここからは個人情報満載なので比喩表現だけで記します――
ドラゴンのような方と同じ席になりました。
萎縮してブラックホールのようになりました。
梅のような方とも初めて会ってお話ししました。
風のように爽やかな方でした。
星のようにたくさんの方々と名刺交換をしました。
犬のように疲れ果てました。
ドラゴンのような方は非常に若者思いで、とてもためになるお話をしてくださいました。
夢のような時間でした。
「梅のような方のファンクラブを作ろう」と嘘みたいな話もしました。
夢のような夜でした。
ⅴ 二次会
非常に眠たかったです。――ここからも比喩表現で――
川のような方とサウンドのお話をしました。
猫のような方も加わり知識がたくさん増えました。
松のような方が素晴らしいツールを作っていました。
でも説明書のようなものはまだ無いそうです。
左のような方ともお話しました。
とても綺麗な絵で、まるで3DCGのようでした。
少し驚いたのが、僕の左側の川のような人と右側の左のような人との間でお仕事の話が始まったことでした。
僕はサンドイッチのハムに徹することにしました。
そのあと少し眠ってしまったようでした。
目を開けると小節のような体験談が赤裸々に語られていて、目が飛び出るかと思いました。
そのあと歳上の世代の大先輩方からアドバイスのようなものを頂きました。
押井守監督作品のような名作をしっかり受け取りたいと思いました。
しかしまあ、話をしているときの歳上世代の方々の目は少年のようでした。
それから、終盤は町のような方からシナリオライターのお話もたくさん聞くことができました。
眠さと疲労も相まって本当にもう夢なんじゃないかというような夜でしたが、夢だけど夢じゃなかったような気持ちでいっぱいでした。
ⅵ まとめ
すごかった。入ってよかった。そういうわけで、気になる方は「2Dクリエイター友の会」でググればいいと思います。
そしてちなみに「あかほん!」の第7話もちゃんとあとで掲載するのでよろしくお願いします。
あと、「私は女優になりたいの」も鋭意製作中なのでよろしくお願いします。
というわけでクロロの色音でした。
一応壁紙を。
誰に会いに行くかってそんなの秘密ですけど、楽しい夜になるといいですねと。
友達100人できるかな。
なまず。
ズッキーニ。
にく。
くわがた。
たくわえ。
えもの。
のり。
リクエスト。
友達100人で着るかな。
――4月13日(月)
――
教室
――
スウにローキックを食らって、彩里さんにハメられて、チカちゃんに無視されて、チリコが地理オタクで、コッコさんにショタコン扱いされた、そんな怒涛の一週間が終わった。二日間の心地よい金縛りにあった後は、また学校に来なくてはいけない。受験生だし、というか登校に関しては受験生でなくても当然のことだ。
白石「よう、シキネ」(真顔)
シキネ「ああ……」
白石「……なんだよ、つれねえな」(真顔)
[ホームルーム]
シオ「シキネくん、今日一緒にお弁当食べよ?」(笑顔[閉眼])
シキネ「ああ、うん」
そういえば、と彩里さんの口からコッコさんの話が出たときは少し驚いた。
シオ「シキネくんコッコさんに話しに行ったんでしょ?」(デフォ)
シキネ「ああ、まあね」
シオ「どうだった?」(真面目)
シキネ「えっと……いろいろ取り返しのつかないことにはなったけど……国語は教えてくれるって」
シオ「おおー! シキネくんすごいよ。コッコさんて大人気だから捕まえるの大変なんだよ!」(驚き)
シキネ「え……そうなんだ」
そういやコッコさん、自分のこと有名人って自負してたしな。
シオ「私も彼女をなんとしても捕まえようと、あの手この手、決定的な勧誘ポイントを調達しているところだったんだけど、なかなか情報が無くてね」(苦笑)
決定的な勧誘ポイントってアレだろ、弱みのことだろ。
シキネ「まあ、それなら良かったよ。何事もなくコッコさんにお話が通って」
シオ「何事も無く……ね」(うっとり)
……何をするつもりだったのだろうか。
シオ「じゃあお昼ね、この教室で」(笑顔[閉眼])
――
教室
――
[昼休み]
というわけでお昼ご飯が始まった。俺とスウと彩里さんとチカちゃんと……白石の5人で。
シキネ「白石いらねーだろ」
白石「うるひゃい」(真顔)
シキネ「口の中にものを入れたまま喋るんじゃありません!」
チカ「お姉ちゃん、アイツうるさい」(不満)
シオ「見てれば楽しいよ?」(笑顔[閉眼])
スウ「なんか……ヘンな感じ」(苦笑)
というわけで、無理やり引き合わされた感は拭えないものの、なんとか楽しくお昼をやっている……気はする。いつか、チリコも呼べる日が来たりしてな。でも流石に三年生ばっかりだし、チリコは引っ込み思案っぽいから難しいかもな、唯一の二年生も無愛想な感じだし。
チカちゃんの方へふと目をやる。一瞬で目をそらされた。やっぱり、嫌われているんだろうな、トホホ……。コッコさんも呼べば来るのかな。今度彩里さんに話してみよう。
白石「てかさ、聞いた?」(真顔)
シキネ「何?」
白石「転校生の話」(真顔)
シキネ「転校生?」
シオ「シキネくんは知らない? あのね、留学していた子が帰って来るんだって。それでね、うちの高校の留学制度だと自動的にダブっちゃうからさ、私達より一つ歳上なの。だから正確には転校生じゃないんだけど同じようなものかな?」(真面目)
白石「そうそう、それそれ」(真顔)
スウ「へー、私も知らなかった。三年に編入するの?」(驚き)
シオ「そうみたいだよ、本当は始業式に間に合う予定だったんだけど、手続きやらなんやらで、遅れちゃったみたい。でも今週中には来るとか聞いたよ」(笑顔[開眼])
白石「そうそう、それそれ」(真顔)
シキネ「へー、歳上か」
スウ「男子? 女子?」(きょとん)
シオ「女の子だったよね? 白石くん」(デフォ)
白石「そうそう、それそれ」(真顔)
シキネ「歳上+女の子→お姉さん属性だとぅ!?」
スウ「うわ、 ゴメン無理」(引き)
シキネ「そんなに引かないでくれ、スウ」
チカ「お姉ちゃん、アイツ気持ち悪い」(不満)
シキネ「そんなこと言わないでくれ、チカちゃん」
シオ「美人だといいねー」(笑顔[閉眼])
シキネ「その笑顔が一番怖いです、彩里さん」
こんな感じで最初はどうなる事かと思ったが、楽しくお昼ご飯することが出来た。しかし、みんな勉強会のことなんてすっかり忘れていたらしく、なんの計画も立てられなかったため、結局放課後も何もしなかったというのは秘密の話。
――4月14日(火)
――
教室
――
[ホームルーム]
担任が何か言っているがもちろん聞いていない。
担任「実は今日、この学年に……」
あ、スウからメールだ。なんだろう、こんな時間に。
スウ「留学生きた、うちのクラスに∵」
昨日の今日だあああああ!!!
担任「……編入する生徒がすごい美人だから、デュフフ、男子は頑張っとけ。以上」
シキネ「まあ……頑張ってみる価値は……あるかな」
[キリッ]
とりあえずスウに返信する。
シキネ「マジで?」
スウ「なんか、すごい美人∵」
シキネ「それ担任も言ってた(笑)」
スウ「しかも席が私の隣なんだけど∵」
シキネ「それはすげえ」
スウ「すごい大人っぽい、いいなー∵」
ああ、そうだ、容姿が子供っぽいことを気にしているんだっけか。
よし、じゃあここは一つ……。
・やっぱり歳上は違うよなー。
・でも俺はロリコンだからいいや。
・つーか2012年に世界滅亡するらしいよ。
[つーか2012年に世界滅亡するらしいよ]
うん、そうだ。ここは当たり障りのない話題でスルーするのが一番だ、もちろん根拠は無いが。
スウ「しないよ(笑) じゃあそろそろ授業始まるし、じゃあね∵」
うん……ミスったかな。
でも普通にスウとメールしたのって初めてかもしれない、スウも無愛想だからな。実はすごく面倒臭がられていたりして……好かれる要素は無いよな、少なくとも。
まあ、せめて数学を教えてもらえる程度の仲は保てるようにしよう。
それと、2012年は気合入れていこう。
[昼休み]
今日からお昼にコッコさんが加わった。最初は「賑やかなお昼はあまり得意じゃない」と断っていたのだが彩里さんのキラースマイルのおかげでしぶしぶだが来てくれたらしい。
コッコ「あの子の笑顔は一体何……? 命の危険を感じたわ」(焦り)
そう俺に耳打ちしてきた。
シキネ「あの……あまり大きな声では言えないけど、たぶん命に危険があるのは間違い無いよ」
コッコ「アナタ……私をハメたの?」(疑惑)
シキネ「いや……」
コッコ「いえ、ごめんなさい。そうね……アナタも被害者なのね……」(諦め)
聡明なコッコさんは何かを悟って、何かを諦めたらしかった。
そして今日は何故か白石に加えてしゅんじまで来ていた。
しゅんじ「筋肉じゃ受験に受からないって先生に言われてさ」(真顔)
先生も先生だ、他に言い方があるだろう。
白石に加えてこの筋肉の塊が勉強会にやってくるようになったらますますチリコが誘いにくくなるじゃないか、この筋肉の塊が!
スウ「でさ、今日の放課後は何かするの」(デフォ)
シオ「じゃあ、さっそく図書室で勉強会しよっか」(笑顔[閉眼])
コッコ「今日図書室は業者の搬入があるから難しいわよ……って言って」(真面目)
シキネ「俺に耳打ちしないで直接言ったらいいじゃないですか!」
スウ「そっか、図書室は駄目なのか」(デフォ)
シキネ「それなら地歴こっ……」
白石「おい、シキネ」(真顔)
シキネ「なんだよ、今話してんだよ」
白石「卵焼き交換しようぜ」(真顔)
シキネ「そんなん、しゅんじとやってろよ」
しゅんじ「俺、今日弁当忘れちゃった」(真顔)
シキネ「じゃあなんでお前ここにいるんだよっ!!」
そういうわけで結局チリコのことも地歴公民教室のことも言いだせないまま、明日から頑張ろうという受験生に一番ふさわしくない結論に至ったのだった。
――
教室
――
[放課後]
シキネ「……」
シオ「どうしたの、シキネくん。なんか固まっているけど?」(きょとん)
シキネ「……わからない」
シオ「さっきの数学?」(きょとん)
スウ「やほー」(デフォ)
シオ「ああ、ちょうどいいところに、スウちゃん」(笑顔[開眼])
スウ「なんかあったの?」(きょとん)
シキネ「……わからない」
六限は数学Ⅲの授業で、無限やらなんやらの話をしこたま聞かされた。
シキネ「なんで∞/∞ってやっちゃいけないの?」
スウ「不定形になるから」(デフォ)
シキネ「……なんすか、それ」
スウ「よくわからなくなっちゃうってこと。理解するのが目的だったのに結果がよくわからなくなっちゃったら困るでしょ?」(デフォ)
シキネ「いやでもさ、x/xって全部1じゃん? だから∞/∞も1になるんじゃないの?」
スウ「なるほどね、そういうことね。シキネは割り算出来るんだよね?」(ほう)
シキネ「出来ると思うんだけどな……」
スウ「割り算の対象って数でしょ? 複素数でもなんでも含めて」(教える顔)
シキネ「うん」
スウ「∞ってね、数じゃないんだよ」(苦笑)
シキネ「え」
スウ「だからそもそも∞/∞って書くことすらおかしいことなんだよね、本当は。教科書をよく見て。∞に関しては加減乗除の四則計算が一切されてないでしょ?」(デフォ)
シキネ「え、あれ、本当だ、よく見たらどこにも載っていない!」
スウ「∞/∞が1になるかどうかは私たちの数学ではわからないわけ。x/x(ただしx≠0)のときとは違うんだよ」(デフォ)
シキネ「だからこの形にならないように計算する……ってこと?」
スウ「そういうことだね」(笑顔)
シキネ「そうか、1にならないのか」
スウ「ううん、違うよ」(デフォ)
シキネ「え」
スウ「1になるかどうかわからないんだよ」(デフォ)
このとき、内心「どっちでもいいじゃねえか」と思ってしまったが、すかさず訂正を入れる彼女を見て数学が出来るってこういうことなんだなあと感じた。厳密で飛躍を許さない数学。その厳密さによって美しさを保っている……そういうことなのだろうか。
それじゃあ……君の美しさは……?
俺にはわからない。わからないことだらけだ。
わかるのはまた別の話。
――
教室
――
[休み時間]
なんだかなあ、人員は順調に集まっているのだが、当の俺が蚊帳の外状態である気がしてならない。
あ、そうか、そもそも俺には勉強をする気が無いのか、だからいまいち実感がわかないのだろう。そうだ、これはまさに三者面談で親と担任教師が「私たちの時代はねえ」などと受験トークで盛り上がっているのを傍で聞いている気分にそっくりだ。
まあ、そんな自己分析は置いておいて、もう「数学」「物理」「化学」「地理」の教科担任は揃ってしまったんだ。そろそろ俺もぷるるん女子トークにふんどしで割り込むくらいの気概を持ち合わせておかないと……。
白石「あとは英語と国語だな」(真顔)
シキネ「うわぉっい!」
白石「あ、あと地理もか」(真顔)
シキネ「なんだ白石、いきなりだな」
白石「俺的にはしっかり手順を踏まえてから言ったつもりだが」(真顔)
シキネ「知らねえよ、そして地理はもう人が見つかったんだ、そしてそしてこのことはお前には関係ない」
白石「あるだろ」(真顔)
シキネ「なにが?」
白石「混ぜて」(真顔)
シキネ「は? マジで言ってんの?」
白石「いいだろ、ケチんぼ」(真顔)
シキネ「じゃあ彩里さんに聞いてみてよ」
ツカツカと白石が彩里さんの方へと向かう。
戻ってきた。
白石「いいってさ」(真顔)
シキネ「あ、そっか……じゃあよろしく」
白石「俺……こういうの初めてだからさ……」(真顔)
シキネ「何が?」
白石「バカヤロウ……言わせんなって……」(紅潮)
シキネ「ああ、わかった。わかったからもうやめろ」
俺は白石の手をとって強く握った。
シキネ「わかったから……」
白石「……バカヤロウ」(紅潮)
全く……つくづく白石はツンデレだぜ、全く。
そして一連の流れを見て一部の女子がザワザワし始めた。以前からそうだが、白石の婦女子人気は相当なものである。あ、腐女子か。
――
廊下
――
[放課後]
英語と国語か、また彩里さんのネットワークから誰かを紹介してもらおうか。いやでも彼女も既に探しているだろうから、話が無いってことは見つからないのかもしれない。かといって俺のネットワークには白石としゅんじくらいしかいないわけだし。
というか、やっぱり今ある教科だけでも十分な気が……。
シキネ「うーん……」
考えを巡らしていると視界に見覚えのある顔が映った。
スウ「あ、どーも」(きょとん)
シキネ「ああ、スウか」
そしてスウが訝しげな顔をしているのに気がついた。
スウ「何してんの? こんなところで」(きょとん)
シキネ「え?」
スウ「こんな……女子トイレの前で」(引き)
シキネ「あれ? うわ、ホントだ! 女子トイレの前だ!」
スウ「なんだかとっても白々しいんですけど……」(引き)
シキネ「ホントだってば、考えごとしていたらいつの間にか聖なる泉に……」
スウ「まー、気持ちはわからなくもないかな。私もたまにあるよ、考えごとしているうちに気付いたら変な場所にいること」(苦笑)
シキネ「スウは頭いいもんなー。いつもどんなことしているの?」
スウ「いつも? うーん、数学に関しては特に何もやって無いね。自分が楽しくてやっていたことがテストに出ている感じ。単純にさ、数学が趣味なんだよね、バレー部の女の子がバレーのことばっかり考えていたり、男子がその、女の子のことばっかり考えていたりするのと同じように数学のことばっかり考えている」(考え顔)
この人はすごいなあ、と思った。カッコイイと思った。
シキネ「うん、やっぱりすごいよ、楽しいと思えるっていうのは一つの才能なんじゃないかな? 俺なんかホント全然で」
スウ「あー、君もかー」(苦笑)
シキネ「?」
スウ「数学って楽しいものなんだよ? 他の勉強だってそう。ただ、今の学校での勉強みたいに“やらされている”と気付きにくくなりがちなんだよね」(苦笑)
シキネ「え、そういうもんなの?」
スウ「数学は愉快なことや美しいことで満ち満ちているんだぞ!」(笑顔)
彼女は今まで見たこと無いような嬉しそうな笑顔でそう言った。何故か……何故か俺は数学に少し嫉妬してしまいそうだった。
シキネ「へえ、ありがとう。何だろう、ちょっとやる気になったかも」
スウ「それは良かった」(デフォ)
今までちゃんと会話する機会がなかったけれど、スウは頭のいい人なんだなとほとほと実感することになった。数学のことになるとよく口が回り、楽しそうな表情を見せる彼女がとても印象的だった。彩里さんとハゲタカ理系トークをしていたときのあの顔だ。ぷるるん女子トークのときとは違う。俺にもこんな顔で好きなことを語れる日は来るのだろうか。初めてスウのことを羨ましいと思えた。恋愛対象とかではないが、単純に人間として彼女に惹かれつつある自分に気が付いた。
シキネ「あ、そういえば国語の教科担任なんだけど……」
スウ「国語かあ……国語は私も古典が苦手だなあ。コッコさんって知っている?」(苦笑)
シキネ「何それ? どこの鳥?」
スウ「女の子なんだけど、すごく大人びていて羨ま……いや失言。私も数回しか話したことないんだけど、全国模試の国語で偏差値80くらいとっちゃうすごい人」(デフォ)
シキネ「あれですか、どこの学校にもあると言われる“頭いい人ネットワーク”ですか」
スウ「たしか図書委員だったはずだから、図書室で“ためになる本”でも読んでいれば会えるんじゃない?」(考え顔)
シキネ「わかった、行ってみよう」
スウ「そっか。それじゃあね、私は帰るし」(デフォ)
シキネ「ばいばいアゲイン」
スウ「ばいばい……アゲイン?」(きょとん)
――
図書室
――
うーん、ためになる本って何だ。
ためになる本。
ためになる本。
ためになる本ためになる本ためになる本ためになる……。
何がためになるんだ?
シキネ「うーん……」
――
??「これ、お願い」(デフォ)
??「あ、コッコさん、毎日来ますね」(笑顔)
コッコ「何、井部くんのくせに皮肉かしら?」(なまめかしい)
井部「いえいえ、違いますよ」(慌て)
コッコ「んふ、私の居場所なんてここくらいしかないでしょう?」(笑顔)
井部「そうやって自分では皮肉るんですね」(苦笑)
コッコ「あら、文句ある?」(笑顔)
井部「はは。それにしてもこの“ためになる本”って面白いタイトルですね」(笑顔)
コッコ「でしょう? “ためになる本”ってタイトルを付けるくらいだからよっぽどためになるのか、名前だけの……」(デフォ)
――
シキネ「アーッ! “ためになる本”あった!」
だいぶ大きな声を出してしまった。マズイと思ったときにはもう遅く、図書室の注目は俺と“ためになる本”のやりとりをしていた二人に集まった。
コッコ「ちょっとお兄さん、アナタいきなりどうしちゃったの? って、あら、もしかしてアナタ……」(驚き)
シキネ「俺のこと知っているんですか?」
コッコ「シキネくんだったかしら?」(デフォ)
シキネ「なぜ俺のことを?」
コッコ「アナタ、結構有名よ? だって……」(にやにや)
まさか、まさかこんなところで最近の行いを反省することになるとは思わなかった。
コッコ「だって確か、小学生好きのロリコンで今日も教室でホモ達とホモってたんでしょ?
ロリコンでホモ……あ! もしかしてショタコンなのかしら?」(なまめかしい)
ヒント1:図書室は静かな教室です。
ヒント2:俺は今、室内の注目を浴びています。
ヒント3:この女性はよく通る綺麗な発声をしていました。
その時、あんなに静かだった図書室がざわめきだした。
シキネ「ちょ、ちょっと、誤解だ!!」
コッコ「こら、図書室なんだから。大声出すのはやめてもらえない?」(にやにや)
井部「あの、コッコさん、誰なんですかこの人、ショタコンって……」(引き)
シキネ「だから俺はショタじゃ・・・って、コッコさん?! あなたが?」
コッコ「あら、アナタも私のこと知っていたのね。お互い有名人は辛いわね」(デフォ)
ということでコッコさんに全てを説明した、“ためになる本”のことも。
コッコ「ふふ、それで私のところに来たの?」(にやにや)
シキネ「まあ」
コッコ「あはは、可笑しい。変な子」(笑顔)
シキネ「まあ」
コッコ「アナタ、頭湧いているんじゃないの?」(なまめかしい)
シキネ「すんません」
コッコ「それで、どうなの? 実際のところは、ショタなの?」(にやにや)
シキネ「ショタじゃありません!」
コッコ「ホモなの?」(にやにや)
シキネ「ホモじゃありません!」
コッコ「ロリなの?」(にやにや)
シキネ「ロリかロリじゃないかで言ったらロリです」
コッコ「アナタ、本当に面白いのね。いいわ、質問があったらいつでも図書室にいらっしゃい。いつもここにいるわ。ね、井部くん」(デフォ)
井部「いつもいますよね。図書室もいいところですよ。幼い男の子の文献などもたくさんありますし」(苦笑)
シキネ「だから俺はっ!」
コッコ「あら、でもこの“ためになる本”にも『自分の本当の気持ちを素直に見つめてみましょう』って書いてあるわよ?」(にやにや)
シキネ「だから俺はっ!!!」
そんな感じで俺の図書室デビューは大成功だった。
俺が自分の気持ちを素直に見つめるのはまた別の話。

コッコさん(国語)
筑波大学の学園祭のAmusement Creatorsのブースにて行ったライトニングトークのスライド資料をこちらに貼っておきます。
お越し下さったみなさんありがとうございました。
(一日目、二日目という文字をクリックすればDLページにいけます)
一日目
二日目
今度の筑波大学の学園祭ライブでこの曲を演奏します。
これはもともとミク曲で、巡音ルカが発売された当初くらいに「一年生にビビってる先輩」というのをテーマに作った曲です、たしか。「私は女優になりたいの」でもたぶん使います。
キャリアが違います。
[歌詞]
俺は先輩 君らとは違うよ
顔も声もアレもオンナの趣味も
俺は先輩 君たちの先輩 なめないで
女の寝相なんて知らねえだろ?
やっぱり一年生 何も怖くない!
キャリアが違うから
やっぱり一年生 何も怖くない!
ぐずぐずしてんなよ
俺は先輩 一線を画すぜ
顔の良さもファンも人としての飛距離も
俺は先輩 君たちの先輩 跪け
愛してるって面と向かって言えねえだろ?
やっぱり一年生 何も怖くない!
若さが眩しいだけ
やっぱり一年生 きっと怖くない!
そうさ
(Oh I don't know what you mean, girl? It's too bad to me.
Why do you shout so loudly baby…)
わ か ら ん
英語らめえええええええええ
やっぱり一年生 何も怖くない!
キャリアが違うから
やっぱり一年生 きっと怖くない!
若さが眩しい
なんだかんだ言っても 若さが眩しい!
おねだり上手
なんだかんだ言っても 若さが眩しい!
色気が勝負の差
(※女の寝相なんて知りません)
――
地歴公民教室
――
男子会は残念ながらさせてもらえなかったので、一人でぶらぶらっと校内を歩いていたら件の地歴公民教室を見つけた。この学校に通ってもう二年経つが、ここに来た記憶はない。こんな所にあったんだ、スウも目の付け所がいいな。
……というか、穴場過ぎて人の気配が全くないように思えるんだが。
お、準備室だ。こういう準備室には一度入ってみたいなと思っていた……おお、しかも鍵がかかっていない。
――ガチャリ。
――
地歴公民準備室
――
好奇心に任せて扉を開けてみたが、あれ、誰もいない。こんなにたくさん本が置いてあるのに部屋を開けっぱなしというのは流石に管理がずさん過ぎやしないか。とりあえずその辺に座ってみる。
ふう。
――高校三年生の春。
シキネ「春眠あか……つきだっけ、シモツキだっけ……ああ……」
嘘つきだったけか。
なんだか日当たりが良くって寝てしまいそうだ。
というか、寝た。
――
地歴公民準備教室
――
シキネ「ん……」
ああ、本当に寝てしまった。まだチャイムは鳴っていないと思うけど……。
だんだん、ぼんやりしていた視界がクリアになってきた。だってほら、目の前に顔が……。
??「え」(きょとん)
シキネ「は」
??「うわあ!」(驚き)
シキネ「うごおぉ!」
彼女はびっくりついでに勢いよく飛びあがった。仕方ないだろう、なんせ物凄く顔が近かったのだ。俺は飛び下がろうとしたが、椅子からはたらく垂直効力というものがあってそれはできず、ただ顎を机にぶつけただけだった。
シキネ「ど……どちら様ですか?」
チリコ「あ、あのう……私、チリコです。じゃなくてっ……え? えっと……この部屋に私以外の人がいるのが珍しかったので、その、誰かな……って」(慌て)
なんだか、すごくピョコピョコしている、小動物みたいな子だった。髪の毛は二つに縛っていたが、チカちゃんのツインテールとは違って素朴で地味な雰囲気をしている。これは二つ縛りと呼んだ方がいいのかな。目は切れ長で、まつ毛も長く、ちょっと色っぽい、艶っぽいような気が一瞬したが、一瞬は一瞬で、全体で見るとやっぱり小動物だった。
シキネ「そっか。ところで、先生も誰もいないみたいだけど……ここっていつも鍵はかかってないの?」
チリコ「いえ、いつもかかっていますよ、地歴公民教室も準備室も両方。ただ、さっきは私がちょっと外に出てしまっていたので……」(もじもじ)
シキネ「へえ、どこ行っていたの?」
チリコ「ちょっと……」(もじもじ紅潮)
シキネ「ちょっと……?」
チリコ「……」(もじもじ紅潮)
シキネ「ああ……トイレか」
チリコ「……ハイ」(もじもじ紅潮)
シキネ「ああ……スッキリした?」
チリコ「……ハイ」(すごく紅潮)
……何を聞いているんだろう、俺は。いや、これも俺が望んだ世界なのだから、いや、いい加減目を覚ませ、寝ボケるな、このままでは捕まってしまう。
シキネ「こほん、えっと、ということはここに来るには職員室から鍵を借りてこないと駄目なのかな?」
チリコ「はい……普通はそうです」(デフォ)
シキネ「ん、普通はって?」
チリコ「ええとっ……実は私、合鍵をもらっているんですよ」(もじもじ)
シキネ「え、どういうこと?」
チリコ「実は私、地形図などの地理っぽい資料を見るのが大好きで、毎日ここへ来させてもらっているんですよ、去年入学して以来ほぼ毎日」(もじもじ)
シキネ「は」
チリコ「それで、事務の人も鍵渡しが面倒になってきたみたいで、合鍵を私にくれたんですよ……あ、あんまり人に言わないでくださいね?」(もじもじ)
シキネ「地理オタク……っていうやつかい?」
チリコ「……そうかもしれません」(もじもじ紅潮)
地理オタク……聞いたことがあるぞ。確かフローリングなどの木目を地形図の等高線に見立てて「お、良い地形だな、ここにミカン農園でも作ろう」とかやっている人たちのことだ。何が楽しいんだろう。社会科が苦手な俺には理解できない趣向だ。
シキネ「えっと、去年入学したってことは君は二年生だよね?」
チリコ「はい、そうです」(デフォ)
シキネ「そっかあ、残念だなあ」
チリコ「何のことですか……?」(きょとん)
君を地理担任として勉強会に引き入れれば教室も確保できて一石二鳥だと思ったんだけど……なんて言うのはさすがに自己中心的過ぎるかな。
シキネ「俺、地理を誰かに教えてもらいたいなと思っていたんだけど」
チリコ「はい」(きょとん)
シキネ「さすがに二年生だもんね、無理だよね」
チリコ「あーはい……そうですね……」(もじもじ)
シキネ「だよね……」
チリコ「はい……せいぜいわかるのは大学受験レベルが関の山ですよ……」(もじもじ)
シキネ「あー、えー、あー……。え?」
チリコ「ああ、でも国公立の記述問題とかはたまに難しいのがありますよね……」(きょとん)
シキネ「ちょっと待ってね、え、大学受験レベルだったらわかるの?」
チリコ「え……はい、たぶん。このへんにある問題集はだいたい解いてみたので……おそらく……」(もじもじ)
シキネ「いや俺、大学受験するんだけど……」
チリコ「……?」
というかあれだ、大学受験レベルを超えた地理ってなんだよ。全っ然想像できないし、この子の偏執的な地理熱に若干の恐ろしささえ感じてしまった。チカちゃんといい、なんでこの子らはこんなに勉強が大好きなんだろう……よくわからない。
シキネ「そういうわけで、どうか俺にセンター地理を教えてください」
よくわからないが、とりあえず土下寝した。
チリコ「わわわ、そんなっ、頭を上げて下さいっ!!」(慌て)
シキネ「オネガイシマスー」
板張りの床に顔を擦りつけると懐かしい血の匂いがした。
チリコ「わかりましたっ。あのあのっ、私は全然構わないんですけどっ、センパイは私なんかでいいんですか……?」(もじもじ紅潮)
シキネ「君がいいんだ……チリコ」
[キリッ]
チリコ「はわわっ、そんなこと言わないでくださいよっ! わぁ、なんだか恥ずかしくなってきました……」(もじもじ紅潮)
シキネ「かわいいね、チリコちゃん」
[キリッ]
チリコ「はわわっ、だからそんなっ……!」(すごく紅潮)
とりあえずそんな感じで、この日は地理の話なんて全くしないまま昼休み終了のチャイムが鳴る前に地歴公民教室をあとにした、またそのうち来るねという約束を取り付けて。
――
教室
――
教室に戻るとスウが俺の席に座っていて、彩里さんと楽しそうにお話していた。
シキネ「またぷるるん女子トークしているの?」
スウ「ぷるるん……何それ?」(きょとん)
シオ「今ね、勉強会はやっぱり図書室でやるのがいいねって話していたんだよ」(笑顔[開眼])
シキネ「え、なんで……?」
スウ「雰囲気の問題。図書室みたいな場所じゃないとお喋りしちゃいそうじゃん?」(苦笑)
シオ「それに、曜日によって教える教科を変えれば大勢で押し掛けることもないかなって」(笑顔[閉眼])
シキネ「ああ……そうですか……」
スウ「うん、がんばろう」(笑顔)
シオ「今度からシキネくんも一緒にお弁当食べようよ」(笑顔[閉眼])
シキネ「ああ……うん……」
結局チリコのことは話せなかった。
シオ「でさ、スーパーソレノイド理論っていう架空の理論があるんだけど」(笑顔[閉眼])
スウ「その、なんだっけ、さっきのカルーツァ=クライン理論を適用するの?」(きょとん)
シオ「そう。でも私、線形代数もトポロジーもかじったくらいだから数式の運用がよくわからなくってね」(残念)
スウ「聞いた感じだと計算自体はそんなに高度なことやってないと思うけど、むしろ私にはこの文字式が何を表しているのかがさっぱりだよ……」(苦笑)
シオ「基本的な考え方は三平方の定理と変わらないんだよ、5次元空間ってだけで」(笑顔[閉眼])
スウ「へえ、それは興味深い!」(デフォ)
シキネ「……」
スウが今座っている席は俺の席だ。……だけどもうそこは俺の居場所ではなくなっていた。さらに、ぷるるん女子トークからハゲタカ理系トークに変わったせいでより一層二人の作り出す固有空間には入りづらくなってしまっていた。ああ、なんか聞いたことがあるぞ、これが「弱い力」か、近づけやしないし、会話に入れやしない。
もういっそ地歴公民教室に戻ろうかと思ったところでチャイムが鳴った。
スウ「いやー、楽しかった」(笑顔)
シオ「うん」(笑顔[閉眼])
一体何が楽しいというのだ、わけがわからない。
スウ「ごめんね、席取っちゃって」(苦笑)
シキネ「チャイムに救われたと思いなよ……」
スウ「え……」(きょとん)
シキネ「いや……救われたのは俺の方か……」
スウ「わけわかんない……」(きょとん)
わけがわかる日が来るのはまた別の話。

冴木チリコ(地理)